第1話 VS大魔王ついに決着! 勇者アルトよ永遠に!
俺は今、『ファイナルクエスト』のラストダンジョンにて、大魔王と戦っていた。
パソコン画面に映るドット絵でのターン制バトルは、一昔前のレトロ感に満ち溢れている。
けれど俺は、なぜかそのゲームに没頭していた。
このゲームは、タイトルのパクリ臭からもわかる通り、市販で売られている物ではない。
普段の俺ならスルーしていたであろう、迷惑メールに送付されていたアプリゲームだ。
なんでこんな怪しいプログラムを実行しようと思ったんだっけ。
そのあまりにストレートなタイトルがツボに入ったからだったかな。
まあいいや。
春休みに入ってから、ずっと暇だったし。
大学生なんだから、バイトでもするっていう手もあった。
でも、最近両親に事故で先立たれて一人身となった俺には、多額の保険金が残っていた。
卒業までの金には困っていない。
ただ、両親がいなくなってしまって、俺は気力を失っていた。
大学に行く以外ではネット、ゲーム、時々アニメを見るという、怠惰な毎日を過ごしていた。
こういった経緯を辿った俺が、ちょっとクスリときたものに対して興味を抱き、(もちろん、十分に注意してだけど)つい怪しいファイルを開いてしまったとしても、おかしなことはないだろう。
そんなこんなで、俺はゲームをプレイし始めた。
すると、これが思いのほか面白い。
飯を食う間や寝る間も惜しみ、毎日20時間はパソコンのモニターに噛りついた。
なにかが新しかったわけではない。
なにかが特別だったわけでもない。
『ファイナルクエスト』の世界観、BGM、ゲームシステム等々は、どれもどこかで見聞きしたようなものばかりだった。
どこにでもあるような普通のゲーム。
使い古されたであろう王道のゲーム。
それこそが、最近俺がハマりにハマったゲームの内容だ。
でも、ゲームバランスの良さやシナリオ面における自由度の高さなど、なかなかに面白いと思わせられる理由が、このゲームにはあった。
そんなゲームも、ここで一旦の終わりを向かえる。
魔王城で玉座の間を目の前にしたとき、思うところがあって引き返し、パーティーを解散して勇者1人で挑んだこの戦いも最終局面だ。
大魔王が最終形態らしき黒いドラゴンへと変身してから、すでに数分経過している。
「よし……いけ!」
多分そろそろだろうと思って、最強剣技『ブレイブスラッシュ』を使う。
それによって、大魔王に99999×15のダメージを負わせた。
モニターが眩く点滅する。
そして、敵を倒したこと知らせる軽快な音楽が鳴り響いてきた。
俺はそれを聞き、勢いよく立ち上がってガッツポーズを決める。
「よっしゃぁ!」
最後は勇者だけでラスボスを圧倒し、なおかつ一番カッコイイ技でトドメを刺す。
自分が考えた最高の〆を予定通りに行えたことで、ついテンションが上がってしまった。
こんな場面を誰かに見られたら、ちょっぴり恥ずかしい。
でも、今この部屋には俺しかいないのだから、別に構いやしないだろう。
俺はそう思い、右の拳を天井に向かって突き上げた。
――すると、視界が突然ぶれた。
「……え?」
右手に何かずっしりとした重みを感じ、俺は体の重心を崩しそうになる。
「え?」
目の前あったはずのパソコンがない。
代わりにあったものは、いかにも凶悪そうな黒い龍が血を流している姿だ。
その龍は瀕死……というよりも、すでに死んでいるように見える。
「え?」
変化したのは、目の前にあるものだけではない。
どういうわけか、俺は自分の部屋じゃなくて、薄暗くて荘厳な雰囲気の漂う大きな部屋の中にいた。
「え?」
なんで、ここにいるのかわからない。
どうして、ここに来たのかわからない。
わけがわからなすぎる……。
だけど、いくつかわかったことがある。
目の前で死んでいる黒い龍は、俺が倒したのであろう、ということ。
それが俺の右手に持つ黄金の剣によってなされたのであろう、ということ。
剣の刀身に付着した黒い液体を見て、俺はそう判断した。
また、俺の置かれた状況がどんなものであるかということも、なんとなくだが察しがついた。
目の前には黒いドラゴン。
俺の手には豪奢な剣。
ついさっきまで遊んでいたゲームの内容と同じ状況に、俺は立たされていた。
そして
そして……
「えー……」
……そして俺は、大魔王を倒していた。