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(仮)あの日の蝶を追いかけて  作者: logicerror
第1章 過去への扉
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0110 2018年(9) 夜の電話

 榊さんと高校生みたいなやりとりをして帰宅して入浴や歯磨きを済ませ、自室でうとうとしていたときに携帯電話が鳴った。


 「はい永島です。」


 「生電研究所のカイバラです。今少々お時間よろしいでしょうか?」

 

 ひどく透き通って正確な発音ではあったが、さらさらと手の間から零れ落ちていく粉雪のように温度が低そうな、ありていに言えば冷たい声だった。さっき携番を交換しあったばかりの榊さんかも、と思っていた僕は背筋に水を流し込まれたように、思わず起き上がって布団に座り直した。


 要件は僕の体調等の確認だった。僕は一瞬迷ったが、もう忘れてしまっていた昔の夢をよく見る、その夢をみたりそのことを人に話したりするまで、忘れに気づかなかったが、思い出すと急に前後のことも含めて芋づる式にしっかり思い出せる。あと、それと関係ないと思うが鼻血が多い、と伝えた。


 何の動揺もなく聞き取っていた相手方は、鼻血が多いという点で少し考え込むように黙り込んだが、念のため、と言って、できるだけすぐに検査等で対応するつもりだが、家族には伝えておいてもいい、体調が悪い時は、病院の代表からだとつながりにくいのでこの電話にかけなおすこと(「履歴はわかりますね?」)、また気になるようであれば地元の病院などに治験を受けたことを明らかにして相談してもいいが、その医師から治験内容について聞きたいと言われたり、あるいは当研究所から別に問い合わせがあったりしたときには、カイバラに直接連絡してもらう方がよい、だから連絡先を伝えてください、と指示された。最後の点、特に同じ研究所からの問い合わせへの対応についての言及はあまり聞かないような指示なので当否がよくわからなかったが、おそらくは医師の間で治療方針が共有されないと困るということなのだろう。


 「確認ですが、

  再検査の日時や場所については、またご連絡します。

  私以外の医師や担当者等からの問い合わせについては、直接私に連絡するようお伝えください。

  その他体調等で不安があったり、あなたに何かあったときは、ご家族からでも良いので私にお伝えください。」


 いいですね、とそれこそ感情のかけらもない滔々とした口調で伝えられ、了承したが、何か一方的に伝えられる感じが気に障った。一矢報いるつもりで、病院で耳に挟んだことを言ってみた。


 「前も少しお話ししましたが、病院にいるとき、主任を降ろされると聞きましたよ。もしそうなっても、カイバラさんにご連絡するのでいいんですか」


 「・・そんな話は聞いていません。どこでそんな話が出たんでしょうか?」


 「退院前、おたくの病院でちょっと暴れて倉庫か何かに閉じ込められたときに、病院のスタッフか誰かが私に気づかず倉庫でしゃべってましたよ」

 

 そして簡単に聞いた内容を伝える。


 「・・そうですか。連絡は、今後、仮に交代などがあって病院から何か別の方に連絡するよう指示があったとしても、それと別に必ず私に、この電話番号に一報入れてください。あなたのためです」


 「何かやっぱり後遺症があるんですか。お亡くなりになった被験者がいるって話、もしかすると本当だったんですか?」


 「それにはお答えできませんが、『私は』、患者(ペイシェント)の命は守ります」


 ちょっと意趣返ししようとしたのだが、妙な恐怖を感じ、思わず謝意を簡単に伝えてすぐに電話を切った。意趣返しに対する切り返しとしてのブラフだったのだろうか、しかしどこかうそ寒いほどの真剣さをカイバラの口調に感じた僕は、とりあえずあまりこのことは考えまいと逃避を図ったのだった。

 

 ※ ※ ※


 その日も夢を見た。少し日が飛んでいたが、やっぱり文化祭の準備とかの夢だった。僕は人のとりまとめを任されて、お化け屋敷か何かの運営での脅かしスタッフや注意スタッフ、安全配慮スタッフとかを割り当てて、これまでの仕事の経験を活かしてぴしぴしと注意事項を伝え、試行練習を行わせ、体験側の意見を聴取してまとめ、スタッフ間で意見交換をさせてアイデアを出し合わせ、またリハーサルをさせ、・・と気持ちよく切りまわしていた。少し放課後も使って練習して、夕焼けを見ながら一ツ木君や宮島さんたちといっしょに、わいわいと話をしながら、帰宅路が分かれるまで一緒に帰った。実際もこんな風だったら良かったのにな、と思った。


 朝起きた僕は、何かの確信に突き動かされて文集を開け、アルバムを開いた。前回みた時より、文化祭に関するコメントが増えている、気がする。文化祭写真も増えていて、校長先生がおばけ役にほほえみかけている。

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