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日常小話

世界についての考察

作者: くつぎ

オチも何もないようなくだらない会話文になっています。

初投稿、試作のようなもの。

『この世界は、思ったより生きにくくはないかい?』



「そうでもないんじゃない?」


 学食の片隅、窓際のテーブルでのこと。

 俺の目の前で頬杖をつく『彼女』は、ひどく呆れたような表情で言った。


「生きにくい世の中なら、私はとっくに人間やめてる」

「ん、これ一応、けっこう敬うべき人の言葉なんだけどな」


 がしがし、頭を掻く。


「敬うべきだか憂うべきだか知らないけども、その考えは理解しかねるよ」

「憂うべきではない」


 カフェオレをすする彼女にそう言ってから、俺もコーヒーをすすった。


「しかし、珍しいね」

「何が?」

「君が誰かの言葉に感銘を受けるようなタイプだとは思わなかった」

「失敬だな」


 眉間にしわを寄せて見せれば、彼女が笑う。…俺の表情が可笑しいからか。


「で? それ、誰の言葉なの」

「うちの担任」

「へえ、急に興味なくなった」


 さすがにそれは、うちの担任に対して失礼ではないだろうか。


「私はそれよりもっといい言葉を知ってるよ」


 カフェオレのカップを置いて、彼女は笑った。



『生きる理由なんて、生まれた意味を知ることで充分だ』



「…そりゃあ…確かに、そうかもな」

「ちなみにこの言葉には続きがあってね」



『生まれた意味なんて、生きたという事実だけで充分だ』



「…なるほど」


 それを聞いてしまうと、生きにくい生きにくくないなんて関係ない気がしてくる。

 …担任には申し訳ないが、さっきの言葉は俺のボキャブラリーから外そう。


「で、それは誰の言葉なんだ」

「私の父親」

「あァ…」


 彼女の父親と、面識があるわけではない。

 ただ、俺の父親と彼女の父親は親友で、俺の父親と彼女の母親が兄妹。

 つまるところ、俺と彼女の関係はイトコということ。


「ちなみに私の父親は、学生時代の先輩から聞いたと言っていた」

「出所は別かよ」

「でもいい言葉でしょ? 生きることすら楽になってくる」


 にこりと笑って、彼女はまたカフェオレをすする。


「確かになァ」


 同意を示しつつ、窓の外に目をやった。

 運動場では、俺と彼女の友人たちが、全力で缶蹴りをしている。

 この寒い中、元気なことだ。


「ああいうのも、そんな感じだな」

「遊ぶ理由なんて、遊んだ意味を知ることで充分だ」

「遊んだ意味なんて、遊んだという事実だけで充分だ」


 そんなことを言い合って、笑った。


「意味とか気にして遊ぶ必要なんて、ないよな」

「そう。同じように、意味とか気にして生きる必要もないわけだよ」


 それが結論。

 俺たちは同時にカップを持ち、それぞれ飲み物をすすった。

 何故、すするのか。それは俺たちが猫舌であるがゆえ、だ。



『人は生まれた意味を知るために生きるもの』

『人は生きた事実を得るために生まれるもの』



「ところで、話は変わるのだけど」

「何だ」

「舌、火傷した」

「奇遇だな、俺もだ」


 沈黙の中に、友人たちの笑い声。

 それにつられて、俺たちも火傷した舌で笑い合う。

 ま、俺たちの人生なんて、そんなもんさ。



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