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こんな夢を観た

こんな夢を観た「赤ちゃんを押し付けられる」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/23

 フード・コートでハンバーガー・セットを食べている。そこへ、ベビー・カーを押した母親がやってきた。

 母親は、わたしの隣の席にベビー・カーを停めると、

「さぁて、買い物にでも行ってくるかな」と言う。どうやら、赤ちゃんを置いて出かけるつもりらしい。

「あのう、赤ちゃんから目を離すのは危ないですよ」つい、口を出してしまった。

「あら。でも、そうは言うけど、ベビー・カーを引きながらなんて、買い物できないじゃない。困ったわね。そうだ。それじゃ、あなた、この子を見ててくれない? ほら、いかにも子供が好き、って顔をしてるし」

「えーっ、そんなのこっちが困ります」思いがけない展開に、わたしはびっくりする。

「そんなこと言わないの。どうせ、そこでファスト・フードなんか食べてるだけなんでしょ? いいじゃないの、ちょっとくらい。すぐに戻るんだからさ」早口でまくしたてられ、反論する間もなく、押しつけられてしまった。


「参っちゃうな。余計なことを言うんじゃなかった」後悔してももう遅い。母親はさっさとショッピング・モールへと行ってしまい、あとにはわたしとベビー・カーに寝かされた赤ちゃんだけが残される。

 ふいに、赤ちゃんがむずがり始めた。

「ほーら、ほらほら。泣かないの。泣いちゃダメでちゅよー」ベビー・カーを覗き込んで、わたしは必死にあやす。ミルクが欲しいのだろうか。それとも、おむつかなあ……。

 ぐずぐずと泣き声を洩らすので、とりあえず抱き上げる。

「はいはい、はぁーい。べろべろっ、ばぁ。いい子でちゅねー。どうちちゃったのかなー」

 生後半年くらいだろうか。頭の毛も生えそろい、顔立ちもはっきりしている。長い睫毛にピンクの産着の、可愛らしい女の子だった。


 軽く体を揺らしてあげると、次第にご機嫌になってきたらしく、ぐずるのを止めた。真っ黒な瞳でわたしをじっと見つめている。急にこの赤ちゃんが愛おしく思えてきた。

 赤ちゃんを見つめ返し、にこっと微笑む。

 すると、どうしたことか、赤ちゃんの鼻の下に、ヒゲが生えだす。

「えっ?」

 ヒゲはどんどん伸び、ついには先っぽのくるっと丸まったカイゼル髭になった。

「どうしてっ? 赤ちゃんなのにっ。女の子なのにっ!」


 赤ちゃんは、分別のついた面立ちでいきなり話した。

「あんた、あたちのこと、汗とミルク臭いって思ってるでちょ?」

 わたしはギョッとする。

「あの……いいえ、別にそんなことは」思わず言い淀む。

「ウソおっちゃい。まあ、いいわ。それより、頭の後の手をどけてちょうだい。あたち、もう首はちゃんと座ってるんだから」

「あ、はい」わたしは後頭部を支えていた手をそっと外した。なるほど、だいぶ、しっかりしているようだ。

「いいわ、それで。あたちを押しちゅけられて、すっごーく、迷惑だと思ってるでちょ? だけど、あたち、自分のことぐらい、面倒見られるんだから」赤ちゃんは言う。さっきはぐずっていたのに。「あたちね、こうちてゴロゴロちてながらも、あれやこれや、色々と考えてるのよ。特にウチュウなんて、興味深いわね」


「宇宙?」わたしは聞き返した。

「そうよ、ウチュウ。ビッグ・バンって、あんたちってる?」

「宇宙が始まったっていう、大爆発のことですよね?」

「うん、それ。みんなは、あれがたった1回きりのばくはちゅだと思ってるけど、あたちに言わせると、それは間違いなの。きっと、立て続けに起きてるはじゅよ」

「そ、そうなのっ?」聞いたこともないような説に、わたしは仰天した。

「鉄砲の弾みたいなもんよ」赤ちゃんはもっともらしく語る。「パンッて火薬が破裂して、弾が飛びだちゅの。あたち達は今、その弾にしがみついて飛んでるところ。あとからあとから、弾が打ちだちゃれてくるんだからっ!」

「へえー……」妙に説得力があるのは、その口調のせいなのか、それとも豊かに変化する表情のおかげか。


 その後も、自分で考えたという奇妙な学説を次から次へと持ち出しては、真剣に説く。世界中には、目に見えない歯車がいくつも絡みあっていて、小石がわずかに動いただけで、銀河のどこかで星が1つ消滅するとか、一目惚れは遡ること数億年、アメーバだったころにそのきっかけがあったなど、夢物語だとしても、頭がついていけないことばかり。

「そんなことを、あたちは日頃、ミルクを飲みながら考えてるの」赤ちゃんは満足そうにうなずく。

 しゃべり疲れたのか、目もとがとろんとしてくる。心持ち、体温が上がってきた。だんだんと重くなってくる。

「おねむかな……」わたしは赤ちゃんをベビー・カーに下ろした。もう、すやすやと寝息を立てている。

 立派にそそり立っていたカイゼル髭は、いつのまにか、きれいさっぱりなくなっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか面白い赤ちゃんでした。 きっと母親の前でも同じようなことをしちゃったんでしょうね。
[一言] 危険ですね。なんて親でしょうか。そして何と云う赤ちゃんでしょうか。寝ている子だけが可愛いとは、よく言ったものです。
[良い点] 哲学的で可愛い赤ちゃん、カイゼルひげもまた良しです。 本当にいい夢を見てらっしゃるんですね、教養の深さが感じられます。 私が今日見た夢は猫をずっと抱いてる夢でした。起きたら顔の所に猫が居て…
2014/10/23 06:55 退会済み
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