その八 魔法の使い方
魔法。
それは科学によって発展した世界では疎んじられ、その存在は否定されていた。
もしかすれば、どこかでひっそりと存在していたのかもしれないが、大衆に露呈することはなかった。
それがこの世界には存在し、話を聞く限り自分でも使えそうだ。
それならば使うしかあるまい。
しかし使い方は全くわからず、この先知る宛もない。
そこで俺はアクィナスに教えを請うことにした。
「魔法? いいよ、教えてあげる。でも僕の部屋じゃ魔法は使えないし時間も少ないから、説明と使い方を簡単に。実践は起きてからになるけど、それでもいい?」
「ああ、それでもいい。教えて欲しい」
現状、魔法についてわかっていることはほとんど無い。ほんの少しでも、貴重な情報になる。
「まず、アーステールは魔素というもので満たされているんだ。魔素は全ての元となった物質みたいなもので……なんて説明はいいや。とにかく、アーステールには魔素がある。そして大半の生物は魔素を魔力へと変換することができるんだ。変換した魔力を自分の中に貯めておき、それを消費することで魔法が使えるんだよ。ここまでいいかな?」
なるほど、魔素は燃料、魔力はエネルギー。
そして生物は二つの器官を持っているようなものか。魔素から魔力に変換する変換器と、魔力の蓄電池だ。
そして自分のバッテリーから、魔力を消費することで魔法が使えるということか。
「大丈夫そうだね。じゃあ、次に行くよ?
アーステールの魔法は精霊の力でも、属性とかでも無い、とてもシンプルなモノなんだ。
一言で言うと、世界を書き換える、って感じかな。
具体的に言うと『目の前に空気がある』という現実を書き換えて『目の前に火がある』という現実にするんだよ。
ただ、世界の書き換えにはそれ相応の知識と魔力が必要なんだ。
火を空中に出すときは『火は赤くて熱い物、これを目の前に持ってくる』といった感じだと失敗する。魔力を大量に使えば力押しで成功するけどね。
対して、『火は物質が燃焼することによって、熱と光が発生する現象。これを目の前で発生させる』とすれば、かなり魔力消費を抑えられるんだ」
なるほどなるほど。
つまり、魔力を使うことで書き換えできるのだけど、知識が少ないと書き換える規模が大きくなってしまう。そうなれば消費魔力は増えてしまい、魔力不足で失敗も発生する。
……ん?
「あれ? じゃあ、どうして俺は魔法を使えなかったんだ?」
少し前に火や氷を出そうとした時は、うまくいかなかった。
だが腐っても元大学生、アーステールの人間よりは火や氷については知識があると思う。魔力についてはヴァンパイア補正で足りていると思う。
「まあまあ、人の話は最後まで聞くものだよ?
魔法の成功には他にも要因があるんだ。魔法の対象の座標把握、イメージや集中力、コンディションに種族適正に個別適正…等など。
とにかく、魔法使用の過程は、
まず魔法を使う座標と範囲を正確に把握する。次に頭の中で魔法の使用後をはっきりイメージする。その後、体内の魔力を外に押し出す、ような感覚かな。
たったこれだけさ。ただ、事前の勉強がとても大切なんだ。
おそらく君が魔法を使えなかった理由は、魔力を感じ取れなかっただからだろうね」
「でも、一応体内の魔力的なものを探ってみたんだけど……」
「うーん……前の世界の感覚が邪魔してるのかな……? じゃあ魔力の流れが大きければ……あっ、でも肝心の魔法が使えないのか……うーん…………」
アクィナスは形の整った眉を寄せ、何かぶつぶつとつぶやきだす。
神と言えどもその姿は子供であり、その考えこむ姿はどこか微笑ましい物だった。
「あっ! 君、ヴァンパイアだったじゃん!」
「えっ、あっ、うん。そうらしいね……?」
突然、顔を上げ嬉しそうに叫ぶアクィナス。
ちょっと関係ないことを考えていたせいで、曖昧な返答をしてしまったが、彼はあまり気にしてないようだ。
「ヴァンパイアなんだからさ! 血を吸うときが分かりやすいと思うんだよね!
血には凄く濃い魔力が流れているんだ。しばらくわからないかも知れないけど、何度も意識しながら吸っていれば分かるはずだよ!」
「そうか! ……ってそれは難しいな。まだ魔法も使えないのに、人を何度も襲うのは危険すぎる」
あまり人を無闇矢鱈に襲いたくは無いという理由もある。
「ん? じゃあ魔物から吸ったらいいんじゃないかな?」
「えっ!? 魔物から吸えんの? それなら人間襲う必要なくない?」
「残念ながら弱い魔物の血は、人間のものに比べて魔力がかなり薄いんだ。でも魔力を感じる程度には十分だと思うよ。仮に濃かったとしても、君はわざわざ魔物に噛みつきたいのかい?」
うっ……ゴブリンとか……汚なそう……会ったことないけど…………。
「そ、そうだな……。できるだけ避けたい」
「でしょ? まぁ、魔力を把握できるまでは我慢してね!」
「あ、ああ……頑張るよ……」
モンスターに噛み付くのは気が進まなかったが仕方がない。
魔力を感じるまでの我慢だ。
他にもいくつか話を聞いていたのだが、話が一段落したところでアクィナスは口を開いた。
「そろそろ君も起きるころかな? 後は自分で調べてね!」
「ありがとう。本当に助かった」
アクィナスの吸血鬼と魔法の話はとても有益なものだった。本当はもっと多くのことを聞きたかったのだが、それは後の楽しみだと思っておこう。自分で調べることも楽しいだろうよ。
「それじゃ、しばらく会わないと思うけど、ちゃんと次まで生きててね! じゃあねー!」
「おう、また……な…」
別れを言おうとすると、急速に視界が黒に染まりだした。
またこのパターンか、と思うまもなく、俺の意識は再び闇に沈んだ。
主人公の名前がでないと書きづらいですね、早く出したいです。
ようやく世界設定が固まってきました。