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その六 身体測定をしよう!






 これはギルドカード、とかいう物に違いない。ランクとか武器とか書いてあるし。

 カードをひっくり返してみると、そこには魔法陣のようなものがぎりぎり収まるような大きさで描かれており、端の方に『冒険者ギルド』と書かれていた。

 やっぱりこの世界には冒険者ギルドがあるのか……。胸が熱くなるな。


 どうやらこの男の名前はボルド・ルートヘルムというらしい。Bランクというとなんとなく強そうな気がする。年齢も四十一と若くはないことから、ベテランだったのではないだろうか。

 ところで貢献度ってなんだ? ギルドに対する貢献度か? 七千六百……この数字は大きい方なんだろうか。

 まあ、人里に付けばわかるだろう。今はこれ以上カードから得られる情報はなさそうだ。


 次に確認したのは地図だった。これで周辺の地理が分かれば、この先の行動を決めやすくなる。

 丸めてあったものを地面に広げ、四隅を小石で抑えて覗きこむ。

 地図には五つぐらいの大きな島が書かれており、よく見るとそれぞれに何々大陸と書いてある。どうやらこの世界は五つの大陸から成り立っているようだ。



 ……って! 世界地図やないかい!! 縮尺大きすぎて何もわかんねぇぞ!



 仕方なく地図で森を探してみたところ、大きな森がいくつもあり特定出来そうになかった。

 これ以上世界地図なんて見ていてもどうしようもない。コンパスっぽい物を調べよう。


 それは、金属で出来た低い円柱の上面を取り除き、その円柱の芯が、内部の金属でできているであろう矢印を貫いたものだった。指で矢印をくるくると回してみたり、手に持ったまま体の向きを変えてみたりしたが、どちらも最終的には同じような方向を示していた。やはりコンパスのようだ。これがあれば、知らぬ間に道を逸れることも少なくなるだろう。


 残るは四角い石だが、これがどうも分からなかった。ある面に魔法陣が書いてあったのだが、使い方が分からない。それにどんな結果を生むのかも分からないのだ。もし敵に投げる爆弾だったら、俺は弾け飛ぶだろう。ということで下手に(さわ)れずそっとしておく事にした。


 ナップサックの中を調べ終わり、次にボルドを調べようと思ったのだが、防具の外し方が分からない。

 仕方なく防具は体に付けたままにして、隙間に手を差し込みいろいろ探ってみたのだが、たいした物は見つからなかった。



 これでだいたいの物が調べ終わった。辺りは相変わらず木々が青白く発光しており、時間の経過など分からない。

 そろそろこの場所を立ちたく思っているが、さすがにボルドをこのままにしておくのは忍びなかった。

 担いでいくなど絶対にムリだし、せめて土に埋めたいと思ったがシャベルがない。どうしようかと悩んでいると、ふと視界に金属で出来た楕円形のものが入った。

 ……いけるか? ……やっていいのか?

 少し悩んだが遺体を野ざらしにするよりはマシだと思い、抱えるように盾を持った。結構重いがふらついたりはしなかった。

 思い切って地面に先端を突き立て────


 ────あ、これ無理だ。


 突き刺さりはしたが、体の大きさが足りず、盾が厚めだったこともあって土が少ししか掘れなかった。この調子では非常に時間がかかってしまうだろう。埋葬は泣く泣く諦め、形だけでも整えることにする。地面の上にまっすぐに体を伸ばし、腹の上で手を組ませ、剣を墓標代わりに地面に突き刺しておいた。盾は剣のそばに置いてある。

 見栄えが少し良くなったことに満足し、両手を合わせ冥福を祈った。この男(ボルド)のことは全く知らないが、短い時間の中でも悪い男では無い気がした。彼のお陰──勝手にやったのだが──で生活品や、自分のことがいくらか知れたのだ。そのことに俺は大いに感謝をしていた。

 そのうち獣が寄ってくるかもしれないが、これが今できる精一杯の弔いだ。



ところで今、盾で穴を掘ろうなんて馬鹿なことをした時に確信したのだが、間違いなく身体能力が強化されている。どう考えても、三、四歳ぐらいの小さな子どもがあんな重そうな盾を持ち上げることなんてできない。だが俺は実際に持ち上げ、まだ余裕が──大きさは別として──あった。さらに、長時間森の中を走ったこともある。それも裸足で。筋力、体力、耐久力、といった基礎能力が強化されているのだろうか。もしかすると視覚や聴覚も強化されているのかもしれない、ここまでの行動で心当たりがあった。これはアクィナスのおかげなのか、俺の種族補正なのか今はわからない。



 そうなると自分の身体能力を確かめなければならない。何かに襲われた場合、自分の身体能力を把握していないと話にもならないだろう。

 そこで肝心の測定方法だが、周辺にはサバイバルグッズの他に木と草と石ころぐらいしかない。


 ふむ、能力測定法は……木を殴る……却下、骨が折れそうだ……………石を投げる……それだ!


 結局、石を木に思いっ切り投げることにした。これならば危険なことなどなく、威力も分かりやすいと思ったからだ。

 そうと決まれば後は投げるだけだ。近くに落ちている手頃な石を手に取って、少し離れた木に対して半身になり、右腕を大きく後ろに反らし、右足を一歩下げて踏ん張る。


 そして──────思いっ切り投げるっ!





 ビュンッ!! バゴッ!


 


 石が手から離れたとほぼ同時に、二つの音が聞こえた。前者は風切り音だろうが後者は……。

 俺は恐る恐る標的とした木に近づくとそこには────




 ────無傷の木と、細かく砕けた小石がその根本に落ちていた。



 えっ!? そっち!? と思い、木の表面を調べてみるが、なおも青白く光り続けており、傷ひとつ見当たらない。

 どうやらこの木は相当固く、投げた石の方が砕けてしまったようだ。


 まさかなぁ……。木にめり込んだ音かと思ったら……。


 だがおかげで自身の筋力は強化され、投げた石が砕けるほどの投擲力を持っていることが分かった。こんなものを生身に喰らっては重症は免れられないだろう。当分はこれと、ナップサックの中にあったナイフを武器とすることに決めた。

 ということで手頃な大きさの石を拾ってナップサックに詰めておいた。



 石を詰めながら、次に行うことを考えていた。さすがに耐久力や体力を測ることは(はばか)れたので、魔法を試してみることにしよう。やばい、もの凄くワクワクする。

 ところで魔法ってどうやって使うのだろうか。そもそもボルドにしか会ってないので、魔法を見た事がないのだ。なんだか不安になってきたが、試したところで損はしないはずだ。

 とりあえず適当な木に右手を向け、「ファイア」────は延焼したら危険なので「ウォーター」と呟いてみる。


 すると手から一塊の水が木に向かって飛んでいき、バシッという音とともに弾けた────のは俺の妄想だったようだ。うんともすんとも言わない。


 その後、十分近くに渡って様々な事を試したが実現することは叶わなかった。

 具体的には「サンダー」、「ファイアボール」、「アイスニードル」といったものから、「己が身に宿りし荒れ狂う炎よ! 我が道に立ち塞がらんとする者を焼き尽くせ! ファイア!」とか叫んだりした。とてつもなく恥ずかしかったのだが、何も起こらなかった。やはり呪文が間違っているのかもしれない。ちゃんとイメージは思い浮かべながらやったんだけどなぁ……。

 そこで体内や周辺の魔力を感じようとしたが、これも感じる事はなかった。流石にそこまで甘くないようだ。


 もしかすると、自分は魔力がなかったり、魔法が使えないのではないだろうか。そう思うと凄く気分が沈んだが、まだ手探りで調べただけでしかないのだ。とりあえず今は魔法を諦め、人里に出て魔法について学ぶ事に思いを馳せることにした。

 




 そんなわけで身体能力も把握した。敵が出てきても石を投擲すれば、なんとかなるはずだ。

 荷物整理も弔いも済ませ、ここでやることはもうない。このまま留まっていても良い変化は期待できないだろうと、移動することにした。


 しかしどこに進もうか。ここまで来るのにそこそこの距離を走り、途中で曲がってしまったので、すでに洞窟の場所は曖昧な方向しか分からない。やみくもに探すのもアリだが、戻ってもどうせ洞窟しか無い。

 地図は役に立たないし、ボルドがやってきた方向もわからない。


 悩んだ末にコンパスの指し示す方向に進むことにした。それならば一直線で迷いようがなく、自分がやってきた方向とは違う方を指しており分かりやすかったからだ。


 俺は進む方向を決めるとナップサックを担ぎ、最後にもう一度ボルドに手を合わせてからゆっくりと歩き始めた。






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