表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

その五 小さな吸血鬼と遺留品





 ────気がつくと、俺は先ほど看取った男に牙を突き立てていた。

 慌てて離れようとするが、体が言う事を聞かない。


 どうなっているんだ!?


 と、口の中に広がるものに気がついた。




 ────血の味だ。




 前世では口を切ったり、傷口を口で消毒したときに感じた味だ。

 あの味は苦手だった。鉄臭い、独特の味。



 だが今は────



 まだ突き立てたときに出血した量しか口には入っていないが、その赤黒い液体は舌の上で広がりゆっくりと染み渡った。それと同時に唾液が次々と分泌され、舌に広がった血液を口内に広げ始める。その独特な強い香りが、口から鼻へと駆け抜け脳を刺激し、心地よい痺れを与えた────まるで男の死を悼む葡萄酒(ワイン)のように。

 口の中に広がる液体を飲み込むと、喉をどろりと通り抜け、そのまま腹の中へと収まった。喉と腹がかあっ、と熱くなったが、それは決して不快な物ではなかった。


 なにより────こんなに美味(おいし)いものを口にするのは初めてだった。



 血を飲んだ余韻から解放されると、俺はさらなる血を求め、強く吸い上げた。

 男から血液を吸い上げると同時に、喉をごくごくと鳴らしながら飲み込む。


 常識的に考えれば、小さな数カ所の穴から大量の血液を吸うのは不可能だ。だがここは異世界で魔法もあるとアクィナスは言っていた。最早、俺の常識などなんの役にも立たないのだ。


 血をごくごくと飲めば飲むほど、体中が熱くなり力が満ちるようだった。

 俺は夢中になって、血を飲み続けた。











 しばらくすると、血液の出が悪くなり始めた。飲み干してしまったのだろうか。

 思えば大きいペットボトル三本分ぐらい飲んだ気がする。


 最後に思いっきり強く吸って、名残惜しく思いながらも首筋から離れた。


 正面に回って見てみると、流石にアニメや漫画みたいにカラッカラのミイラになっていたりはしなかった。全体的に赤みが消えて白っぽくなり、一回りほど小さくなったような感じだ。考えてみれば、人体の七十パーセントが水分で出来ているが、それ全てが血というわけではないのだ。


 それにしても良かった。

 流石にさっきまで会話してた人をミイラなんかにしたくないわ……。


 気を取り戻し両手を合わせ、ごちそうさまでした、とつぶやく。







 さて、頭もはっきりしたし、満腹にもなった。さっきはかなり怖かったけど、今は全身に力が満ちているようで、なんだか誰にも負ける気がしない。それに血も俺がほとんど吸い尽くしちゃって、辺りにほとんど匂いは残っていない。獣がよってくる事もないだろう。



 一度落ち着いて、いろいろと整理することにした。



 おそらく俺は吸血鬼(ヴァンパイア)といった感じの種族に生まれ変わったのだと思う。というか、俺は血を吸う人型の生物ってそれぐらいしか知らない───一瞬とあるUMA(チュパカブラ)が思い浮かんだが、気づかなかった事にした──。これなら裸でも凍えず、裸足で歩き回っても痛みを感じず、洞窟の中で一人で裸で生まれた事にも納得がいく。


 いや、吸血鬼(ヴァンパイア)の生態なんて知らないけど……あんだけ血を美味しく感じるし……。


 まぁ、あの抜けた神様の事だ。何かうっかりミスで吸血鬼(ヴァンパイア)にしちゃったんだろう。


 ん? てことは、主食は人間の血で、太陽の下にでたら灰になるの? え? 何その人生ハードモード……。親もいないし、頼る相手どころか知り合いもいない。どうしよう。


 でも吸血鬼(ヴァンパイア)は魔法が得意だったり、変身できたり、空を飛んだりできるはず!

 あっ……魔法も何も使い方知らなかったわ……。


 とりあえず吸血鬼(ヴァンパイア)問題はおいておこう。



 次にこの男、目の前で何も出来ずに死んでしまい、凄く申し訳ないのだが、そのことは考えない事にする。 安らかな表情で死んでいるのだが、その顔は……やはり厳つかった。茶色いその髪は短かめで、兜の隙間からちらりと見える程度だ。顔をじっくり見てみると、もしかしたら四十代なのかもしれないと思った。近くに少し血の付いた大きめの剣と楕円形の盾が落ちていた。これが彼の武器だったのだろう。


 あとムキムキでめっちゃ強そう。


 その屈強な体を防具で守っていたようだが、残念な事に今回は役に立たなかったようだ。

 他人の遺体をあさるような真似はイヤだったが、この状況ではそうも言ってられない。情報を集めなければ死んでしまうのだ。


 とりあえず男の装備を外そうとして、木の根元に茶色い大きめのナップサックが置いてある事に気がついた。今までどうして気がつかなかったのだろうか。

 急いでナップサックに近づき中身を確認してみると、数日分と思われる水と食料、束ねられたロープ、地図、方位磁石(コンパス)にしか見えないもの、数本のナイフ、一枚の毛布、四角いカードのような物、上下の服がワンセット、よく分からない四角い石ころのような物、などが入っていた。


 これは……間違いなくサバイバルグッズ!

 今、俺が最も必要としている物じゃないか!


 俺は思いもかけず、手にした幸運に神に感謝を…………元はと言えばアクィナスのせいだったわ。

 男に感謝をし、ありがたく使わせてもらう事にした。





 食料の量からして、人の住む場所まで二、三日程度かと検討をつけた。ナップサックの空きの量から言っても、まだそこまで出発地点からは慣れてないはずだ。たぶん。

 そこに向かえば人に会えるはずだ。

 となると、まずは服を着る事にする。いくらなんでも素っ裸で人前に出たくはない。しかし、この男の服が自分に合うわけもなく、上一枚だけをワンピースのようにして着てみた。茶色いその上着はざらざらとしていて着心地はよくはなかったが、俺の膝上までの丈があった。袖がだぼだぼなので腕まくりをしている。スースーするのは変わりないが、大事なところが隠れたので満足だった。

 ちなみにズボンは履けなかった。丈は切ればなんとかなるのだが、腰回りがぶかぶかすぎるのだ。ロープで縛ってみたが、余った部分が邪魔で仕方がない。切ったところで縫う物もないし、失敗する気しかしなかった。

 というわけでワンピースで十分だと判断したわけだ。


 次に四角いカードを見てみる。よく分からないが固い素材で出来ており、薄い赤色をしている。表面はつるつるで光沢があり、見た事のない文字が黒色で書かれている。

 ……だが、何故か俺にはその文字が読めた。いや、読めるというよりなんとなく意味が分かったのだ。

 そのカードにはこう書かれてた。





 

#名前 : ボルド・ルートヘルム

 ランク : B

 貢献度 : 7638

 年齢 : 41

 主要武器 : 剣と盾

 





 立ち直るの早すぎだろ! と思うかもしれませんが、考えないようにしているのと、血を飲んだ高揚感のせいです。


 ちなみに、人間の血液の量は体重の約8%だそうです。

 男は出血していたので、もっと少ないです。


 人間から全ての血を抜いたら、作者にはどうなるか分かりません。

 実際とは異なると思いますが、ご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ