その二 ぬるま湯転生
さて、ぽっくり死んでしまって神様に異世界行きを頼まれている俺だが、もちろん聞きたいことはたくさんある。
「どうして────俺を選んだんだ?」
「えっ!? あ、その、あの…………そうだ! 優しそうだから!」
「今めっちゃ考えてたよね! しかも答えがモテない男に対する慰めじゃん!?」
明らかに挙動不審になり、適当なことをいう姿は神様とは思えず、見たままの歳相応に見えた。
「ほんとはね、君を選んだのは偶然なんだ。いや、奇跡とでも言うべきかもね」
「どういうことだ?」
「その日、僕は日課のリモコン隠しを」
「お前だったのか!!」
「あっ!? ちがっ……! ……とにかく僕は分身体で用事を済ませ────他の神には黙っててね────君の世界を離れるところだったんだ。そうしたらね、帰るときになんか変なものが僕にまとわりついてきて、この空間までついてきちゃったんだ。それが君」
「変なものとか言うな! ……というか神様に取り憑くとか凄いな」
自分のよくわからない根性になんとなく感心してしまった。
だが、変なもの呼ばわりは勘弁して欲しい。
「まぁ、付いてきたものはしょうがないと思って有効利用することにしたんだ。ちょうどアーステールも怪しい感じでね。『あ! 保険にちょうどいいや! 触媒にしちゃおう!』って思ったわけさ。あの世に送るのも違う世界に送るのも、この空間からは同じ様なものだからね!」
その場の思いつきだったのか。
……神様ってみんなこんな感じなのか……?
「ちなみにあくまで触媒だからさ、君は何もしなくていいんだ。僕の力を君の魂に纏わせるだけさ。その世界にいる、というのが重要で、後はもしものときに僕が勝手に力を使うから。あと、僕は君の人生には関わらないようにするからね。生まれ変わったら、僕のことは忘れて好きにしちゃっていいんだよ」
ふむ……考えてみたが俺にとってのデメリットは全くない。むしろメリットしか無いし、高待遇すぎる。
だが俺は知っている。こういうときは渋ることによって、より良い条件になるのだ。
「うーん……。ものすごくいい話なんだけどなぁ……ちょっとなぁ……。
ほら? もしかしたら俺、危機までの間に弱すぎて死んじゃうかもよ? 初めての世界で何もわからないし……」
俺は不安そうに言ってみた。いや、渋るために言ってみたがこれは本当に問題だ。
生まれたのが街の端っこのスラムとかで、享年三日とかになったらどうするんだろう。
「あー、そっか……。虫とかになったらすぐ死にそうだもんね……」
「そこからかよ!?」
……この神様大丈夫か?
もう少しでモンスターどころか虫になるところだった……。
「人間でもすぐ死んじゃうと困るし……裕福な家庭にしておこうか?」
「お願いします! ……もうちょっと何かつけて欲しいな〜?」
「仕方ないなぁ……。特別に特典をつけてあげよう」
「よっしゃ! ちなみにどんな特典が?」
「それは、ひ・み・つ! ……なんだいその目は? 少しぐらい僕を信用してくれたっていいじゃないか!」
しらけた目を向ける俺に、アクィナスは声を荒げるが既に手遅れだった。
「まぁいいさ。一度死んだ俺にもう一度チャンスをくれるんだ。信じるよ」
「ほんとかい! ありがとう! じゃあ早速行ってもらおうかな!」
唐突に話を進めるアクィナスだが、口を開くまでもなく視界が暗くなっていく。
なっ……まだ言いたい事が……
「ごめんね。魂を送るにしてもタイミングがあるんだ。それがもうそろそろでね。僕の力を君の魂に纏わせる作業も残ってるけど、安心して眠っててね。次に目が覚める時は新しい世界だよ。それと────
────楽しかったよ。ありがとう」
………………俺もだよ。
…………あと特典は豪華にしてくれ………
────俺の意識はそこで途切れた。
チートいくない。