妹登場(というより強襲)
「――初火」
目に飛び込んできたのは顔を真っ青にした妹、初火だった。
恐らくトイレットペーパーの補充にでもやってきたのだろう、初火の周りには数ロールそれが落ちている。素晴らしい間の悪さだ。
「そんな……、なんで」
涙こそ流していはないが、今にも泣き出しそうな表情の初火。
「いや、待ってくれ初火。誤解だ!」
急な出来事に水萌は呆けている。こんなシチュエーションを見られたら、まるでぼくが水萌に『お兄ちゃん』と呼ばせたみたいじゃないか。
「いやっ、そんな……、そんな……」
一方、初火はヒスっている。落ち着いてくれ。
「初火、違うんだこれには深いわけがあって」
本当はそんなものなどないのだけれど。
「深い……わけ……?」
少しだけ落ち着きを取り戻した初火が絞り出すような声で聞いてくる。
「それってどんな?」
……どんなわけだろうね? クラスメイトから上目遣いで『お兄ちゃん』って呼ばれる深いわけって。
全然想像できないや!
つまりは沈黙が訪れるわけで……
初火の顔がさらに青ざめる。
「やっぱりそういう感じの」
「違う!」
「違うの!」
意識を取り戻した水萌が助け船を出してくれそうだ。頼むぼくの代わりに弁解を……
「陽火くんは初火ちゃんが『お兄ちゃん』って呼んでくれなくなって、そのせいでこんな感じに……」
なぜ言いよどむ! 逆効果なんだけど!
あと、さっきから『そういう感じ』とか『こんな感じ』とかってなんだよ!
そんなわけで、再び沈黙が場を支配する。
「……うん。わたしが悪かったんだ」
ぽつり――、息苦しい沈黙の中、初火が呟いた。
「えっ?」
ぼくと水萌が声を上げたのは同時だった。