あらいあい
「ご馳走さま」
煮込みハンバーグを食べ終え、部屋へ着替えを取りに行く。初火はまだ半分程しか食べていなかったので序でに初火の分の着替えも。
リビングに戻ると、野菜とご飯半分を残して初火も食事を終えたようだ。
「かなみさん、お風呂入ってきますね」
「はい、沸いてますからどうぞ」
告げて、浴室へ向かう。少しして初火も出てくる。
「着替え、持ってきたから」
「ありがと、お兄ちゃん」
二人して、脱衣場に入る。意識すると、見られながら脱ぐのってなんか恥ずかしい。ここは先攻を初火に譲ろう。
「…………」
「…………」
沈黙が訪れる。どうやら初火も同じ考えだったようだ。後ろを向いてシャツを脱ぎ始める。こういうときは先に折れてしまった方が楽だ。
すぐに後ろからも、衣擦れの音が聞こえてくる。
「先に入っとく」
声をかけて浴室へ入る。さすがに早く脱ぎ終わったからといって、初火が脱いでいる様子を観察するようなことはしない。
「はーい。わたしももう行く」
ぽいぽーい、と脱いだ着替えを洗濯機に放り込んで、ぼくの後に続く。
浴槽は二人入っても、ちょうどよい位の大きさであるが、初火が密着してくるため、あんまり関係無い。
遮るものが何もない状況だと、流石にぼくでも思うところがある。
「……初火、ちょっと近くない?」
「気のせい」
レンジゼロで気のせいとは、ぼくの錯覚なのだろうか。
「初火、体洗いたいからちょっとどいて?」
やっぱりちょっと気になってしまうので、そう提言する。初火はぼくの上に乗っているので、初火が先に出てくれないとぼくは出られない。
「わかったー」
そう言って初火は、しれっと一つしかない風呂椅子に座る。
「…………はやくー」
洗えってか。まぁ、それも含めてお願いって事でいいか。
「洗うぞ」
シャワーで髪を濡らしてシャンプーを手に取る。手のひらで少し泡立てた後、初火の髪にのせ広げる。
めっちゃ泡立ち良い。洗っててすごい気持ち良い。一本一本が絹糸のように滑らかな真っ赤な髪。
「痒いとこない?」
「ううん。気持ちいい」
ゆるめのシャワーで泡を落としていく。泡切れもいい。
「体はどうする?」
ぼくとしては洗う気満々なのだけど。
「……お願いします」
スポンジにボディーソープを着けて泡を作る。首から順に下へと洗う作戦で。
首ー。左腕ー。右腕ー。鎖骨ー。鎖骨にスポンジが触れると、初火がピクッと反応する。
「ここ弱いね」
何度か撫でるようにスポンジを当てる。
「こしょばいよ、早く次のとこ洗って」
「はいはい。じゃあ、ばんざいして」
初火が両手を上に挙げる。腋への攻撃は効果抜群である。
「ひゃっ! だめ! 次」
次は逆サイドを攻略する。期待通り、可愛い反応をしてくれたので満足である。
次に背中を洗う。次は、まぁ、順番的に、胸を洗うのであって。
別に楽しみとかじゃないけれど、まぁ、可愛い反応を期待していますよ。
「…………えっと、前は自分で洗うよ?」
先回りされた。ぼく、別に悔しくなんてないから!
初火が体を洗い終えた後、初火がぼくの髪と背中を洗ってくれて、ついでに前も洗ってくれるかなーとか思ったら、普通にスポンジを渡された。
泡を流して再び浴槽へ入る。今度はぼくが後に入ったので、初火の向かい側に座る。
初火を見つめる。可愛いぼくの妹。ぼくは彼女を愛している。
だけど、それでも、しかしながら、心の隅では。
結局その後は二人とも無言で、浴槽を出た。
「ちゃんと体拭けよ。また風邪ひくぞ」
「風邪ひいたら、またお兄ちゃんに看病してもらうもん」
明るく初火は返す。風邪ひいたら、本人がしんどいから注意したのに。
「かなみさん、お風呂空きましたよ」
「はい、では初火さまを……」
声をかけると、ソファーに座っていたかなみさんは、初火を呼びに行こうとしてか腰を上げた。
「あー、初火も入ったので。かなみさんどうぞ……」
何となく気まずい雰囲気が流れる。かなみさんは一応は笑顔を崩さずに、答えた。
「そうですか。今日は一緒だったんですね。ではわたくしも次、頂きますので」
「はい。じゃあ先に休みます。お休みなさい」
「お休みなさいませ、陽火さま」
ぼくらは、なにも言わない。




