メール
「じゃあぼくは部屋に居るから。ちゃんと大人しく寝ておきなよ」
「えっ? わたし、お兄ちゃんが居ないと死んじゃうよ?」
さも当たり前の事を確認するような口調で恐ろしいことをサラッという初火。そんなの聞いたことねぇよ。
「……じゃあ、本取って来るから。ちょっとだけ待ってて?」
「はーい」
いい返事だ、と頭を撫で自室へ向かう。
すると初火も付いてきた。先に自分の部屋で待ってようよ。ほんの二、三分なんだし。部屋で本(ブックカバー付き、臨視から借りているヤツ)を回収して、初火の部屋へと向かう。
変わらず初火は、ぼくの後ろを付いてくる。
「じゃあ、ちゃんと寝ておくんだぞ」
「うんー。お兄ちゃんも、この部屋から出ちゃダメだよ」
軟禁されちゃった。まぁ、本を取ってきたし退屈はしないだろう。この隣に妹がいる状況で、妹物の××小説を読むという。
なんかこのスリル、ハマりそうだぜ!
初火のベッドを背もたれに座ると、ケータイにメールが来ていたことに気が付いた。
『from日向水萌 件名:どうしたの?』
水萌からか。休んだから気にしてくれたのだろう。
『風邪かな?? 大丈夫??』
受信時間を見ると八時半。ホームルームの時に気付いてメールくれたんだ。思わず顔が綻んでしまう。
「どうしたの?」
そんな様子を訝しんだ初火がそう訊いてきた。
「いや、なんでもない」
口角が上がらないように気をつける。
『to日向水萌。本文:大丈夫だよ。初火が熱を出して看病してるだけ。明日は学校行くよ』
送信、っとケータイが震えた。返信か?やけに早いな。
『from生島臨視、件名:どしたー? 本文:なんで休んでんだよー。かぜー?』
なんかイラッときたから無視で。なんでだろう……イラッときた。心配してくれたのだろうけど。
微かなこの苛立ちは何なのだろうと不審に思っていると、水萌から返信が来た。
『from日向水萌、本文:そうだったんだー。心配したんだよ。じゃあ初火ちゃん、お大事に。それと明日、陽火くん日直だから早目に来てね。あたしも手伝うからー』
女の子らしい絵文字がふんだんに使われたメールだった。まぁ半分、業務連絡みたいな内容だったけど。返信のメールを作成する。
『to日向水萌。本文:ありがとう。助かるよ。じゃあまた明日ね。』
と、送信。ケータイを置くと、初火が不満気な目でこちらを見ていた。
「今の女子?」
「あぁ、うん。そうだよ」
初火から若干の圧力を感じて、少し怯んでしまった。
「ふーん。なんで?」
訂正しよう。若干ではない、かなりのプレッシャーだ。
何? 九回裏ツーアウト満塁なの?
「えーっと……ぼくが休んだから、心配してメールくれたみたいで」
「なに? 彼女?」
やべぇ。こんなに不機嫌な初火見たことねぇ。つーか怒ってる? ……よな。
「彼女じゃないよ。クラスメイトだよ」
しどろもどろる。怖いよ、初火怖い。マジで怖い。
「ふーん。なんて子?」
ぼくの妹がこんなに高圧的なわけがないと信じたい。
「日向水萌って子。ほら、覚えてない? 小学生の頃よく公園で遊んだ……」
「……あー、ヒナちゃんだ。思い出した。一緒の高校だったんだー。……でも見たことないけど」
上を向いて考えるような仕草をする初火。
「会ったじゃん。ほら、保健室にいた……」
保健室というワードに初火が反応する。ミスった、地雷だ。金曜の事は触れるべきではなかった。
「……まぁ、もういいけどね」
しまった。という表情をしていたのだろう。初火はそんなぼくを気遣ってか、スルーしてくれるようだ。
「でも、あの子金髪だったじゃん。ヒナちゃんって黒髪だったよね」
「染めたんだって。そう言ってた」
「そうなんだ。意外だね、そんなことしなさそうな子だったのに」
「まぁ、もう高校生だしね」
よかった、興味が次第に移っていってくれた。
「それよりちゃんと寝とけよ。ここに居るから」
「うーん。わかった」
初火が布団をかぶって横になる。それを確認してぼくは本を読み始めた。




