たべさしあい
6時過ぎになったところで、控えめなノックが部屋に響いた。
「お粥をお持ちしました」
「ありがとうございます。いま開けますね」
両手が塞がっているであろうかなみさんのために扉を開ける。
「ありがとうございます。……初火さまは寝ていらっしゃいますか?」
「ええ、そうみたいです。起きたら食べさせますんで、置いといて下さい」
「かしこまりました。では失礼します」
かなみさんはローテーブルにお粥の入った鍋と食器を置いて、初火の方をチラッと見てから出ていった。
「……かなみさん行った?」
「あぁ、うん。初火起きてたんだ」
初火はつぶらな瞳を開いて、ぼくに向けてきた。
「うん」
「なんで?」
かなみさんと初火は仲良いはずなのに、寝たふりを?
「恥ずかしいもん」
そういうものか。まぁ、そういう理由なら別にいいけど。
「ご飯食べられそう? お粥作ってもらってるけど」
「たべる。たべさせて」
初火がベッドの脇まで転がってくる。
「はいはい。ちょっと待ってて」
レンゲで茶碗にお粥をよそう。卵と餡でとじてあってなかなか栄養ありそうだ。
「はい」
少し冷ましてから初火の口元へもっていく。
「あーん」
頑張って大きく開けた初火の口へとお粥を注ぐ。
「はふっ! はふひ! はふひぃ! はふひひょう! ひょっへぇ!」
あれ? 冷ましたと思ったのにっ!
「~~~~!」
口の中に温かいお粥が流れ込んできた。それとともに、視界が初火で埋まる。
流し終えると初火はぼくの口から自分の唇をそっと離した。
「あふいよ! 冷ましてよ、おにぃちゃん!」
初火が涙目で抗議をしてきた。
「いや、ごめん。だけど口移しで返却は……」
初火の口から移されたお粥を飲み下しつつ謝る。
「もぅ、おにぃちゃんてば。わたしが猫舌なの知ってるでしょ?」
「冷めたと思ったんだよ。ごめんごめん」
餡がついた初火の口元を拭ってやる。
「うん、まぁいいけどさ。これからは口移しでたべさせて?」
「それは……流石に……」
「おねがい……ぃゃ?」
お願いされてしまった。……嫌なわけはないのだけど。
「ごちそーさま」
「ごちそうさま」
食べ終えるまでに一時間も掛かってしまった。楽しい食事だったがちょっと疲れた。
「おいしかったよ、おにぃちゃん」
寝転んで初火がそう囁いてきた。作ったのはかなみさんだけど。
「そうだな、おいしかった」
後半、お粥は完全に冷めていたけど。まぁ、その、食べさし合いを続けた。




