本心は
「お待たせしました」
かなみさんはそんなことは気にした様子もなくテーブルに料理を並べ始めた。
「ではどうぞ、召し上がって下さい」
並べ終えるとぼくらにそう促す。
「いただきまーす。一日ぶりのかなみさんの料理だー」
初火が嬉しそうに料理へ箸をのばす。
「いただきます」
なんとなく控えめにそう呟いて箸を手に取る。
「んー、やっぱり家のゴハンが一番美味しいや」
初火がそう感想を述べる。並べられた薬膳風の料理を眺め、次は何にしようか迷っているようだ。それを見入ってしまいそうになったが、ぼくが箸をつけなければ、かなみさんが食べ始められないし。
ぼくはゴマと味噌? で味付けされた豆腐を一切れ、口に運ぶ。
「おいしいです」
そう言って、次の料理に手をつける。
「よかったです。では、わたくしもいただきます」
その後、初火とかなみさんが勉強合宿や料理のレシピを話しているのをぼくは聞いているだけだった。さびしい。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。お粗末様です」
初火は珍しく料理を全て平らげ、いつも通りデザートも食べていた。
「ふー、お腹一杯」
今はそう呟いて、お茶を啜っている。
……どうしよう。もう完全に無視するモードに入られている気がする。かなみさんは笑顔でこちらに視線を向けながら片付けをしているし。
「…………」
どうしよう。もうなんか喋ることすら罪になりそうな空気だ。
「……お風呂入ってきます」
耐えきれなくなって、お風呂エスケープした。初火が反応するかなー、と思ってチラリと伺ったら気にした様子もなくテレビを眺めていた。
心が折れそうである。
「ぶくぶくぶく」
湯船の中で流す涙はカウントされないぜ。だいたい泣いてなんかないし!
「初火、明日になっても怒ってるかなぁ」
そうだとしたらかなり困る。
「まぁ、明日になったらわかるか……ぼくが我慢すればいいし」
風呂から上がると片付けを終えたかなみさんがソファーでテレビを見ながら一息ついていた。
「かなみさん、お風呂空きましたよ」
「はい、次いただきます」
「……ところで初火は?」
「もうお休みになられましたよ」
「……そうですか」
どうしよう。妹がお兄ちゃんに「おやすみ」っていってくれない。
かなみさんの隣に並んでテレビを眺める。
「初火さまに相手にされなくて寂しそうですね」
笑顔でかなみさんが傷口に塩を塗ってきた。
「寂しいですよ。初火の代わりにかなみさん、相手してくださいよ」
なんて冗談めかして言う。
「いいですよー。陽火さまさえ良ければ」
かなみさんが両手を広げ、笑顔を作る。
「ごめんなさい、冗談です」
本気なのか冗談なのか分かりかねない。
「……相手してくれないのは陽火さまもじゃないですか」
「……人のこと言えないですね」
「寂しいのはわたくしもですよ」
悲しそうな笑顔でかなみさんはそう呟いた。いつも笑顔でいる彼女の本心はぼくには分からない。
「かなみさんはぼくのことをどう思っているんですか?」
「好きですよ、陽火さまも初火さまも。家族のようにお慕いしています」
「……ぼくもですよ」
結局、聞いたところで教えてくれないか。いつか彼女の本当の心を知ることができたら。
「では、わたくしはお風呂に入りますね」
「はい、ぼくは少ししたら部屋に戻りますんで。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
リビングから出たところで、かなみさんは立ち止まり呟いた。
「本当は――」
その先は聞こえなかった。もしかしたら何も言ってなかっただけかもしれない。




