翌朝
翌朝、目が覚めると見慣れない光景が目に入った事によって、ホテルに泊まったことを思い出す。
「おはようございます、陽火さま」
いつも通りの挨拶が鼓膜を震わせた。
「おはようございます、かなみさん。今何時ですか?」
朝は光が痛くて、なかなか目が慣れない。カーテン閉めて欲しいな。
「今はまだ7時前ですよ。もう少しゆっくりされても大丈夫です」
「いえ、もう起きます」
答えるが体がベッドに引っ付いて離れない。起きるのが億劫なだけだけど。
「朝食はルームサービスにしますか? それとも食べに出ますか?」
「ルームサービスで」
朝食の話がでたので流石に起きにゃきゃなーって事で、体を持ち上げる。
「……なんですか?」
返答した後も、かなみさんは変わらずぼくに視線を向けていた。
「昨日はよく眠れましたか?」
「ええ、ぐっすり。かなみさんはどうでした?」
「はい、ゆっくり休めました」
頷いて、洗面所へ向かう。夜中にした話にはもう触れないようだ。
部屋で朝食を摂ったあと、ぼくらは早々とチェックアウトした。 服は、着替えを持っていないので昨日のままだ。
「また、来たいですね」
と、かなみさん。
「そうですね」
今度は間違えずにツインをとろう、と心のなかで付け加える。
「初火は夕方には帰ってくるらしいので、晩と明日のための買い物しておきませんか?」
「そうですね、じゃあ歩いて商店街の方を通って帰りましょうか」
「はい、少し遠いですけど大丈夫ですか?」
「ええ、平気です」
そうか、かなみさんがアレならタクシー拾うつもりでいたのだが。
まあ、ぼくが辛いだけなのだけど。体力無いから。
「晩御飯は薬膳にしますけど、お昼はどうしされますか?」
商店街へ向かう道すがら、かなみさんが尋ねてくる。
「そうですね、夜はあっさりですから昼は違うものがいいです」
違うもの、というのもザックリし過ぎだけど、かなみさんが作るのならなんだって構わないし。
「それでは、何か良いものが見つかればそれで作りますね」
「ええ、それでお願いします」
商店街までの道程の半分ほどを消化した辺りだろうか、疲れて心が挫けそうになっていた。
「もうすぐ商店街ですよ。少し疲れましたね」
「そうですね。結構遠かったですよね、やっぱり」
やっぱりタクシー使えばよかったな。などと思いつつ、疲れて無い風を装ってかなみさんに応える。
「えっと、まずは野菜でも……」
ぼくは荷物持ちに徹するつもりで、かなみさんが食材を選ぶのをぼんやりと眺めていた。
かなみさんやっぱり綺麗だな、特に首筋にかかる黒髪が白い肌とのコントラストを演出していて素晴らしい。 うちの学校で見ても、初火や木舞さんと並ぶレベルの美人だろう。
そんなことを考えながら、慣れない商店街でキョロキョロしていると黄色が視界の隅に写った。
「あっ、陽火くん! おはよー」
ぼくの事を見つけるとすぐに、水萌はこちらに駆け寄ってきた。
「おはよ、水萌」
挨拶を返す。
考えてみれば水萌も彼女らとは別のベクトルで魅力的な子だ。
「あら、おはようございます。水萌さん」
野菜を見ていたかなみさんが顔を上げ、水萌に挨拶をする。
「あっ、おねえさんも。おはようございますっ」
水萌は気付いていなかったようで、慌てた様子だ。
「えっと、わたくしは先に魚を見に行ってくるので」
「わかりました。後で追い付きます」
かなみさんが気を使ってくれたようなので、好意に甘えて水萌と少しだけお喋りする事にした。
「水萌は、今日もお店の手伝い?」
「うん、休日はお客さん多いし。陽火くんは?」
「ぼくは、かなみさんの買い物の手伝いかな。荷物持ちにね」
「そうだったんだー。……それで、気になったんだけど一ついいかな?」
水萌が少し迷った後に、こう切り出した。
「なんで陽火くんもおねえさんも、昨日と同じ服なの?」
忘れてた。ホテルに泊まったとは言いづらいし……。
「なんでだろうなー。ところで水萌の服って可愛いよな。いや、水萌自身も可愛いけどさ引き立ててるっていうか」
話題変換した。取り敢えず服を褒めればいいって聞いたことがあるのだけれど。無理があったかな。
「えっ? そっ、そうかなっ? えへへ、そう言われると照れるな」
愛らしく乗ってくれた。可愛いな、お世辞抜きで。
「それで、なんでなの?」
話題は忘れない子だった。いけたと思ったのに。
「うん、実はぼくってあんまり服の種類持ってないんだよね。似通った服を何枚も買っちゃうっていうか……」
「そうなんだ……。それじゃあさ、今度一緒に服買いに行こうよっ! あたしが選んであげるからさ」
ぼくの服を引っ張りながら提案してくる。
「うん、じゃあお願いしようかな」
「お願いされちゃうよっ! またメールするから、都合のいい日教えてね」
子供みたいに喜ぶ水萌を見ていると心が和む。頭悪そうなところが可愛い。
「じゃあ明後日学校で」
「うん、またねっ!」
手を降りながら、水萌は洋風な外装のパン屋へと消えていった。
「可愛いなー」
本音がただ漏れる。頭を撫でたりしたいけど、流石に付き合ってもいないのにそんなことをするのはマナー違反だし。
でも、幼なじみだしアリか? とか考えながら、魚屋にいるかなみさんのもとへと向かった。




