ベッドで
「ご主人さまっ……」
背後から何度もかけられる吐息混じりの問いかけに揺らぐ精神を、果たしていつまで保つ事ができるだろうか。
「本当に、全部わたくしにさせるおつもりなんですか?」
そっと、肩に細くて滑らかなかなみさんの手が添えられる。そして次に背中に温かく柔らかな膨らみが触れる。布一枚しか隔てていないのでその感触は生々しく嫌でも意識してしまう。
……嫌じゃないけど。って、あれ? 布一枚?
「やっぱり、意地悪です。ご主人さま」
(かなみさんバスタオル外したってゃのかよー!)
つまり、ぼくとかなみさんは浴衣の薄い布越しに触れ合っているわけで。
「んっ……、あっ! んんっ……」
ガサゴソと布団が擦れる音に合わせて、あえぎ声にも似たかなみさんの寝息が聞こえた。うん、寝息だこれは。多分、ちょっと寝苦しいだけだろう。
「んんっ! ……っぅ」
少し寝息が大きくなった後に、数度乱れた呼吸音がぼくの脳内で反響した。
「ご主人さま…………もうそろそろ、御相手をして下さったって……」
寝言だ! もしくは婬魔の囁きだ!
「お願いです」
……ぐぬぬ、お願いだと?
もうぼくの目の前(後ろだけど)には、膳が据えられ、あまつさえ「あーん」されている状態だ。
食べてくれとお願いされているのだ。
「………………」
ダメだ。食べたら色々と生活のバランスというか、構造というか、そんな何かがバラバラに崩れ去る。ていうか、メイドさんに手を出すとか倫理的にアウトだ。
そんなこと判ってる。
だけど、木舞さんしかり何故こんなにもタブーに惹かれるのだろう。もう、耐えられない気がしてきた。
「……ご主人さま?」
次に、誘惑されるような声を出されたら折れるだろう。
でも、それでも良いような――。
「……もしかして、本当に寝てらっしゃる?」
努力が実を結んだ瞬間だった。ようやく、かなみさんが折れたのだ。
「……元々、手を出すつもりはなかったのでしょうか? だとしたら、わたくしは……」
何かこうなってくると、手を出さなかった事が悪いように感じる。これが正解の筈なのに。
「……シャワー浴びよう」
消え入りそうな声で呟いた後、かなみさんは浴室へと向かった。




