パンとメイドと幼馴染
「いらっしゃいませっ」
聞き覚えのある声が出迎えた。
「あ、水萌」
黄色い金髪が揺れる。
「よ、陽火くん!? ……と、おねーさん?」
チェック柄のエプロンに身をつつんだ水萌があわあわとしている。
「えっと、水萌ってここでバイトしてたんだね」
とりあえず事実確認。
「えっ? あっ、うん。バイトっていうか、家の手伝い? ここ、お父さんのお店だし」
「あ、そういえばパン屋さんって言ってたもんな」
ここがそうだったのか。
「それより、なんで陽火くんは常連のおねーさんと、一緒にいるの? おねーさんもいつもと違ってオシャレしてるし」
「えっと、かなみさんはうちのメイドだから……」
「ええっ!? そうだったんだ! おねーさんってメイドだったんだっ!」
「ん? 知らなかったのか、いつもメイド服着てるのに?」
その言葉に水萌が首を傾げた。同時に、かなみさんが視線を泳がせた。
あれ? メイド服で出掛けてるって聞いたのだけれど。
「おねーさんが、店に来るときはいつも……」
「それより! ご主人さまと水萌さんはどういう関係なんですか?」
いつも、なんなんだ? 気になるが、かなみさんは続きを言われるとマズいのだろう。
凄く不自然なタイミングで話を遮ってきた。
「えっと、ぼくと水萌はクラスメイトなんですよ」
「そうです」
ぼくの言葉に水萌も同調する。
「名前で呼んでるんですね」
柔らかな微笑みの中に微量の毒を感じた。気のせいか、気のせいだな多分。
「はい、仲良しなんで」
ぼくが答える前に水萌が答えた。
「ねっ?」
水萌は可愛らしくこちらをむいて笑いかけた。
「うん、まぁそうだな。そういうわけです」
「そうなんですか、楽しそうでなによりです」
微笑んではいるものの、すこし複雑そうな表情でかなみさんは、ぼくと水萌を見た。
「あっ、そうだ。何か食べてくの?」
水萌が思い出したように聞いた来た。意識すると急に空腹が襲ってくる。
「そうそう、お昼まだなんだ。ここで食べられる?」
「うん! じゃあ飲み物用意するからパン選んでてねっ! 何飲む?」
「ぼく、紅茶で」
「わたくしも同じで」
「紅茶二つですね。かしこまりましたっ」
そう言って水萌は店の奥へ入っていった。
ぼくもかなみさんも三種類づつパンを選んで会計を済ませた。
ちなみにレジは水萌のお母さんで、そのときに挨拶を交わした。常連とあって、かなみさんは既に顔見知りだったようだ。
「はい、どうぞ」
席に座ると水萌が紅茶を持ってきた。
お礼を言って一口飲む。
「あっ、おいしい」
と言ってみたものの、別に紅茶に詳しい訳ではない。味的には好きなのだが。
「そ、そうかな? おかわり欲しかったら言ってね?」
パンの乗ったトレイを持った水萌が照れていた。
「それとさ、あたしも今からお昼なんだけど、一緒に食べていい?」
控えめな様子で水萌が聞いてきた。
「いいよ」
答えてから確認のためにかなみさんを見る。
かなみさんも視線で「構いませんよ」と答えた。
食事のあと、ぼくとかなみさんは一旦自宅へと引き返す事にした。
因みに食事中の会話はかなみさんが水萌にぼくの学校での様子を尋ね水萌がそれに答えると言った風に進んだ。
ぼくとしては恥ずかしい上に二人だけで会話が弾んだので一抹の寂しさを感じた。
まぁ、全然構わないけれど。
ということで現在、自宅への帰路。
「よかったです。ご主人さまが高校生活を楽しめていたようで」
かなみさんがさっき話題に上っていたその続きだろう、そんな話を振ってきた。
「まぁ、それなりに楽しんでますよ」
かなみさんはなぜか、ぼくには友達が居ないと思っている節があるので。しかし、これで払拭されただろう。
「ご主人さまはあまり御学友と遊びに行かれることがありませんから。もしかしてと思いまして……」
「えっと……」
節があるというか確信をもって疑われていた。
遊びに行かないのは誘われないからじゃなくて家が好きなだけだよ!
「心配しなくてもちゃんといますよ。友達」
低くなってきた空のもとで呟く。




