メガネ
「…………」
メイド服からワンピースに着替えたにもかかわらず、こちらに向けられる視線は止まなかった。
「あのコ、かわいいなー」とか「あの服、どこの店のかしら」とか すれ違う人が口々に呟く。
まぁ、同じ目立つのでもメイドを侍らせて目立つのよりはマシなのだけれど。
しかし、ぼくのメイドさんをあまりジロジロ見られるのはいい気分ではないな。
「かなみさん、どこかお店に入りましょうか」
欲しいものはないけれど視線対策として。
「はい、そうしましょうか。どのお店になさいますか?」
「かなみさんは、どこがいいですか?」
ぼくは基本、こういった事は人任せなのだ。
「ご主人さまの行きたい所でいいですよ」
かなみさんはかなみさんで、ぼくに合わせようとするしな……。
もっと、自分の意見を持っていいと思うのだけれど。
「じゃあ、メガネ見てみましょうか」
テレビ見るときとか、かなみさん見辛そうにしてるし……。
「メガネ、ですか」
かなみさんは、少し嫌そうな顔をした。 メガネがよほど嫌いなのだろう。かなみさんには珍しい表情だ。
「本を読んだり、テレビを見たりするときだけでも掛けるとだいぶ楽ですよ」
ぼくも授業中とかだけそうしいてるし。
「そうですね、じゃあそうします」
あまり乗り気でないようだが、普段不便を感じるようでは辛いだろうし。 そんなことを心中で呟きつつ、メガネ屋に向かう。
「うう……」
「大丈夫ですか、かなみさん?」
なるほど、道理で嫌がるわけだ。
「すいません、ご主人さま。少しだけ寄り掛からさて下さい」
「いいですよ、気にしなくて。こちらこそ、無理に誘ってすいません。まさか、メガネ酔いするなんて、知らなくて……」
「小さい頃に一度経験していて。もう大丈夫になっていると思ったんですが……」
悪いことしちゃったな、ベンチに腰かけてかなみさんの背中をさする。 彼女の背中は心なし小さく感じた。
「だいぶ楽になりました。ご迷惑をお掛けしてすいません」
「いえいえ、仕方ないですよ。体質はどうしようもありませんから」
かなみさんが回復したのは丁度、正午を回った時だった。
「混んできちゃってるな」
適当な店で軽めに食事を取ろうとしたのだがショッピングモール内のフードコートは人で溢れかえっていた。
「混んでますね……」
かなみさんが控えめに呟いた。
「少し遅くなるかもしれませんが月見市まで戻って食べましょうか」
ここら辺の店はどこも混んでいるだろうし。
「かしこまりました」
かなみさんの同意を得ると、そのまま駅へと向かう。
はぐれないようにだろうか、またかなみさんがぼくのシャツの袖をそっとつかんできた。
月見市まで帰ると人の量は流石に引いていた。
「しんどくないですか?」
かなみさんに確認する。
「ええ、もう大丈夫ですよ」
顔色も良さそうだし、本当だろう。
「お昼、食べられそうですか?」
「はい、お腹空いてます」
恥ずかしそうにかなみさんが微笑んだ。
「何か食べたいものってありますか?」
「……えっと、駅前通りに人気のパン屋さんがあるんですけど、行ってみませんか?」
「じゃあ、そうしましょうか」
かなみさんの提案に従って駅前通りへと入る。
「ここら辺ってあんまり来たことないんですよね。学校と逆方向だし」
「そうなんですか。わたくしはよく買い物で来ますよ?」
ぼくの場合、外出自体あんまりしないし。
「じゃあ、そのパン屋さんもよく行くんですか?」
「はい、毎朝お出ししているトーストはその店のですよ」
「そうなんですか、知らなかったです」
あんまり意識したことはなかったが、確かにスーパーで売っている物より美味しい気がする、ような気がする。
「この店ですよ、ランチも頂けるんです」
かなみさんが手のひらを一軒の西洋じみた店に向けた。
「ここが、そうなんですか」
通りの中では目立つ感じのオシャレな店だ。
「朝方と夕方は混むんですけど、昼はそうでもないんですよ」
ランチやってるのに昼は混まないんだ?
「みんな、持ち帰って家で食べる人が多いので」
「あぁー、納得」
心を読んだかのようにかなみさんが先回りして答えてくれた。
あまり、店内が広い訳ではないしそうする人が多いのは頷ける。
「じゃあ、入りましょうか」
ぼうっと、店の外装に見いってしまっていたぼくにかなみさんが声をかけた。
「そうですね」
そうして、店の扉を開けた。




