ワンピース
「えっと、服を探しているのですが……」
かなみさんがそう答えた。そりゃ、服屋だから服を探しているのは前提でしょうよ。
「どんな種類の服をお探しですか?」
天然な客にもめげずに、店員さんは順序立てて質問をくり出す。
どんな種類のがいいですか?と、かなみさんが視線で聞いてきた。
「えっと、丈の短めのスカートと、それに合う上着を……。まぁ、とりあえず上下揃えたいんですが」
ちょっと自分の趣味を晒したみたいで恥ずかしかったが、二人とも気にした様子もないので良しとしよう。
「上下揃えるのでしたら、あちらのワンピースなどいかがでしょうか?」
店員さんが店の中央、一番目立つ位置にディスプレイされている一枚の真っ白いワンピースを指した。
シンプルなデザインではあるが、細部まで丁寧に作り込まれていて素人目にも良いものだとわかる。
……丈も短めだし。やっぱり、そこは大事だよね。
「こちらの商品は当店の目玉となっております。サイズが少し小さめなのでお客様にはピッタリだと思いますよ」
なるほど、かなみさんは小柄だしな。ワンピースなら上下揃える手間が省けるし。
「どうですか? かなみさん?」
気に入ったかどうか聞いてみる。本人が気に入らなかったら意味ないし。
「…………」
返事がない。
ワンピースをキラキラした瞳で見つめている。
当人もかなり気に入っているようだ。というか、最初からこれが欲しくてこの店に入ったのではないだろうか。
「かなみさん?」
もう一度彼女の、名前を呼ぶ。
「はい! 何でしょう!」
「このワンピースは、どうですか? 気に入りました?」
見れば分かるが、一応聞いておく。
「はい。とってもかわいいと思います。けど……」
ここで、かなみさんは一瞬躊躇うように、視線を泳がせた。
「……ご主人さまは、どう思われますか?」
ああ、そういうことか。かなみさんは、あくまでぼくの好みに合わせるつもりなんだ。
「ぼくも、凄くいいと思いますよ?」
すると、かなみさんは花を咲かせたようにパッと表情を明るくさせた。
「よろしければ試着されてみてはいかがでしょうか?」
店員さんがそう提案すると、かなみさんは許しを得るためか、ぼくの方を向いた。
「着てみてください」
ぼくが促すと、かなみさんはワンピースを片手に、足取りを弾ませて試着室へと向かった。
嬉しそうだなぁ。
「彼女さんですか?」
かなみさんの着替えを待っていると店員さんが唐突にそんなことを聞いてきた。
「違いますよ」
端的にそう答えると、更に追撃が……。
「じゃあ、姉弟ですか?」
「彼女は家のメイドですよ」
ていうか、かなみさんがぼくを「ご主人さま」って呼んでたの聞こえてただろ。 彼女とか姉に「ご主人さま」って呼ばせるとかぼくはどんなメイドはマニアだよ。
……さっきも、このツッコミしたな。
「へー、私ホンモノのメイドさんって初めて見ました」
感心したように頷く店員さん。やっぱり珍しいんだな。
「それじゃあ、今日はメイドさんに服をプレゼントするんですね」
獲物を見つけた鷹の目をされた。狙われている。絶対他にもなんか勧められる。
「彼女が気に入ったのなら、そうするつもりです」
まぁ、気に入るのは傍から見ても明白だけどね。 一応、牽制も兼ねて素っ気ない感じで返す。
「それなら、あのワンピースはきっとお気に召すと思いま――」
店員さんが言葉を言い終わらないうちに、かなみさんが試着室のカーテンを開けた。
「どうでしょうか?」
遠慮がちに感想を求めるかなみさんの方へと視線を向ける。
「…………ぉっ」
「ふゎーっ」
息がつまるかと思った。
プロであるハズの店員さんでさえ、素なのか誉めるでなしに驚いている。
「変でしょうか?」
はにかみながら、かなみさんはワンピースの裾をつまんで、ちょこんと持ち上げた。
その仕草は彼女のいまの格好と相まって、まるで白百合が花を咲かせたように見えた。
これを見事に表現するほどの語彙を、ぼくは持ち合わせていないので、身近な言葉で表そう。
ぼくのメイドさん超かわいいわ。似合いすぎだろ。
このワンピースは彼女のために作られたのではないだろうかと錯覚するほどだ。
「変じゃないですよ。とっても似合ってます、かなみさん」
「ホントにとってもお似合いですよー!」
定員さんも甘ったるい声で賛辞を送る。
「ご主人さまにそう言って貰えると嬉しいです」
かなみさんが頬を染めながらそう返した。そんなことを言われると主人冥利につきる。
「丈もウェストも丁度いいみたいですね。どうでしょうか?」
店員さんが買って欲しそうな目でこちらを見ている。
かなみさんも、買って欲しそうな目でこちらを見ている。
購入しますか?
はい。という選択肢からカーソルを動かすことすら許されない。 というか、いいえ。なんていう選択肢じたい最初から存在していない。
「じゃあ、これください」
パァッと二人の表情が明るくなる。ていうか、店員さんホントに嬉しそうだなぁ。
なんかだんだん、かわいく見えてきたんだけど。
「ありがとうございます」
こうして、父さんのカード残高がまた少し(五万円ナリ)削られたのであった。
……服ってこんなに高いんだ。
「ありがとうございますご主人さま」
「いいんですよ」
メイド服の女の子を侍らせたまま買い物できるほどぼくの神経は太くない。
それに、どうせ父親の金だしね!
「凄く似合ってますよ、かなみさん」
ぼくたちは店を後にした。




