喫茶店
「……って、あれ」
営業時間am十時~pm七時。現在時刻、朝九時半。
「ちょっと早く来ちゃったみたいですね」
かなみさんが呟く。ぼくは営業時間が何時からか全く考えてはいなかったが、三十分くらいなら許容範囲だろう。
「喫茶店にでも入って時間潰しましょうか」
都合よく駅前には喫茶店が何軒かある。本音を言うと少し休みたかったし。
「ご主人さま、どこのお店にしますか?」
「かなみさんが決めていいですよ」
明るい感じの店や、クラシック調の店など、見える範囲で五軒ほどあるだろうか。激戦区だな……。
かなみさんはそのうちの一軒、新装オープンしたばかりの若者向けだろう、喫茶店が気になっているようだ。
「それじゃあ、あそこにしますか?」
「えっと、……ご主人さまさえよければ、あそこに行ってみたいです」
なぜか一瞬、かなみさんは戸惑った様子を見せた。だけど本人が行ってみたい、と言うのだし反対する理由は無い。かなみさんを伴って喫茶店へ向かった。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様~」
鼻にかかるような甘ったるい女性たちの声に迎えられぼくは戸惑った。待ち構えていたウエイトレスは皆かなみさんが今着ているものと似ている服装をしていた。
つまりは、ふりふりなメイド服で、出迎えのときのセリフからすでに察してはいたがこの店は……。
「メイド喫茶かよ……」
かなみさんはぼくに気を遣ったのもうなずける。メイドを連れてメイド喫茶って、ぼくはどんなメイドマニアだよ。
シュールにもほどがある。一瞬メイドさん(ウエイトレス)が引きつった顔したの見えたぞ。
「ご主人様方、こちらへどうぞ~」
店の一番奥の席に案内される。真新しいテーブルや壁紙。そのすべてがファンシーで、成る程これがメイド喫茶かと感慨に耽る。
「でもなんで、かなみさんはメイド喫茶なんかに?」
素直な疑問を投げかける。確かにぼくも興味が全く無いというわけではなかったが、それでも女性のかなみさんが何故こんな場所に行きたがったのだろう。
「わたくしも、ひとりのメイドとしてこのような場所ではご主人さまにどんなご奉仕をしているのか気になりまして……」
真面目だなぁ、かなみさんは……。ずれている気がしないでもないが。
「ご主人様は何を飲まれますか?」
かなみさんがメニューの書かれたシートをぼくの方へ向けた。
「あー、ぼくはコーラで。ガムシロップ付けて」
「では、わたくしはアイスティーにします」
メイドさん(ウエイトレス)を呼んで注文を告げる。
「かしこまりました。少々お待ちください、ご主人様っ」
さすがプロというべきかメイドさん(かなみさん)の前でもメイドさん(ウエイトレス)は笑顔を崩さずに対応していた。
ちなみにこの店ではおいしくなる魔法を一緒にするとかいう、公開処刑じみたサービスが無かったことには本当にホッとした。一番気がかりになってたんだよね。
店の中でかなみさんは終始メイドさんたちの接客を観察していた。店を出るときには満足そうな表情をしていたから、よかったのだろう。
「どうでしたか、メイド喫茶は?」
「ええ、すごく勉強になりました。また機会があれば来てみたいです」
気に入ったようだ。メイド同士にしかわからない何かしらがあるのだろう。




