移動中
駅へ向かう間、すれちがう人全員がこちらへと視線を寄越す。成る程目立つ。近所だから見知った顔も多いのだろう、かなみさんに声をかける人は少なくない。どうやらこのあたりの商店街の人たちの間でかなみさんは人気者のようだ。
確かに初火を見慣れていたためにあまり意識したことが無かったが、かなみさんだってかなり美少女だ。年齢的には美女と評した方が良いのだろうけど、彼女の場合は美少女という表現が一番しっくりとくる。
艶やかな黒髪、瑞々しい白い肌、つぶらな瞳、華奢で小柄な体躯、それに中学生にも見える童顔。水萌とまではいかないが、かなり幼く見える。
しかし彼女が纏う雰囲気は年齢に相応しいもので余裕がある。なぜかその横顔に初火と似た印象を感じたところで駅に着いた。
「切符の買い方って知ってますか?」
電車を使って買い物へ行くことなどほとんどないだろうから、もしかしたらということもあり得る。
「大丈夫です。これを持ってます」
そう言ってかなみさんが取り出したのは電子マネー機能が付いたカードだった。
「かなみさん、そんなの持ってたんですね」
なんとなく意外だ。アナログっぽい感じがして結構流行りものには敏感だったりするのだろうか。
「切符の購入の仕方は恥ずかしながら存じていませんが……、これさえあればどこへでも行けるとニュースでやっていましたので!」
嬉々として答えるかなみさん。そういえば電車の電子カードは全国どの路線でも統一になったんだっけ?
新しく買ったものが使えるのでうれしいのだろう。そんなかなみさんを待たせると悪いのでさっさと切符を買う。早く使いたくてたまらないのだろう態度には表さないが、爛々と輝く視線がぼくを急かす。ぼくも電子カードを買っておけばよかったな。
「お待たせしました。行きましょうか」
「はい、ご主人さま」
切符を改札機にくぐらせる。そしてかなみさんもぼくに倣って改札機に……
「かなみさん! それは……」
「えっ?」
ピピーとアラームが鳴る。かなみさんは何が起こったのかいまいち理解していないようだ。初めてなら、してもおかしくない誤解ではあるが。
「かなみさん、それはそこの印にタッチするものなんですよ」
「えっ……そうだったんですか? 申し訳ありません」
ぼくとヘルプにやってきた駅員さんへ交互に頭を下げるかなみさん。予想外に電子カードを食べさせられた改札機は、サイドから駅員さんに異物を取り出して貰っていた。
駅員さんに使用方法を教えて貰った(タッチするだけなのだが)かなみさんは、改札通過に再チャレンジ。当たり前だが今回はちゃんと成功した。
「申し訳ありませんでした。お待たせしてしまって」
「いえいえ。あれくらい、初めてだったら誰だって間違えますから」
そんな会話をしつつ電車を待つ。休日ということもあってホームで電車を待っている人はそこそこ多い。電車の中もそれなりに混んでいるだろう。
「お買いもの楽しみですね」
そんなことは気にしていない様子のかなみさんが話題を振ってきた。
「そうですね。何か買う予定のものとか無いんですか? 欲しいものとか」
「特には……、でもとりあえずショッピングモールにいってみるのが楽しみです」
そういうかなみさんは小さく左右に揺れている。ご機嫌な様子だ。
ホームに入ってきた電車は案の上混んでいた。と言っても平日の通勤ラッシュよりは(徒歩通学なので実際に経験したことはないが)だいぶマシだ。
電車に乗ると丁度隅が開いていたので、そこに陣取り人からかなみさんをかばう位置へと誘導する。うちのメイドさんが痴漢されちゃ嫌だからね。
「ありがとうございます。ご主人さま」
そんな些細な心遣いに気付いたのだろう、かなみさんは小さくお礼を言って来た。
「どういたしまして」
ぼくも素直に返事をした。
目的の駅へ着いたぼくらは電車を降り少し体をほぐした。とりわけ人ごみから、かなみさんを守りながらだったので多少の疲れが出る。
「おかげさまで大分楽でした。ご主人さまは、大丈夫でしたか?」
「はい、このくらい問題ありませんよ」
答えてホームの出口へと向かう。ぼくの少し後ろをかなみさんはついてくる。
駅から出てすぐに目当てのショッピングモールを発見した。噂に違わぬ近さだ。周りが都会っぽくない分そこだけがよく目立っている。




