昔のこと
母親のものだ。
彼女は病気だったらしく初火を生んですぐに亡くなったそうだ。
写真でしか見たことが無いが、母の髪はぼくらと同じように赤かった。
母には家族が居なかったそうだ。
ぼくの父親、……正確には、初火の父ではあるだろうが、ぼくのではない父親がそう言っていた。
遺伝の法則というものがある。
両親の血液型によって子供のそれもある程度決まってくるというものだ。
小学校に上がる前、初火と仲直りする直前、ぼくは一人見ていたテレビ番組でそのことを知った。
なんとなく確認してみて驚いた。ぼくはO型、母親はA型、そして父親と初火はAB型。
A型とAB型からO型は生まれない。
それを知った瞬間ぼくは幼心に言い様のない不安に襲われた。
(いったいぼくは何者なんだ? なぜこの家に居てるんだ? ぼくがこの血液型のことを知ったと父親にばれたら追い出されるかもしれない)
そんなことを考えた。
そんなとき初火が仲直りをしようとぼくの元へとやってきた。
その歩くたび揺れる赤い髪を見て、ぼくは彼女への嫉妬心を忘れ自分の存在を確認するために、彼女を受け入れた。
(少なくとも母親は同じなのだ。初火は紛れもないぼくの妹なんだ)
それからは依存するかのように可愛がった。それを初火は受け入れてくれたのでさらに可愛がった。
最初は、自分がなぜここにいるのか理由を作りたかっただけだった。
今はもう原因は捨て置いているつもりだ。
けれど、ぼくの心は時折さざ波のような不安や劣等感に襲われる。
この一か月は特にそうだった。
「……初火」
「なに? お兄ちゃん」
胸の中で初火が小さく鳴く。
「これからもずっと、一緒に居よう」
これからは心が離れたこの一か月間を取り戻すくらいに近くに居よう。とりあえずは傍に居ること以上のことはできないけれど。
それでも、これからもこの先もずっと。ぼくは初火の気持ちを、できる限りすべて受け入れるつもりだ。
「うん」
少し明るさを取り戻した調子で初火が答える。
まだ眠れないぼくは、寝かしてやらないと、と思いつつも初火に質問を続けた。




