家族
「明日は、早いんだろ?」
結局、初火の言葉にそれ以上返事ができなくなってしまったぼくは、不自然にも話題を切り替えた。
「うん、いつもより一時間くらい」
夜に弱い初火だが、別に朝に弱いわけではない。それでも少しでも多く睡眠をとった方がいいだろう。
「じゃあもう横になろうか。今日は久しぶりに一緒に寝よう?」
提案する。今の初火はきっとぼくの言葉に何一つ反対しないだろう。
「いいの? ここで寝ても?」
うれしいのだろうか、初火は緊張していた頬を少しほころばせた。
「いいよ。じゃあ電気消すよ」
「マメでんきゅう……」
小声で初火が呟く。
「わかってるよ」
初火は起きた時に真っ暗なのが嫌らしく、少しだけ明かりを残したがる。
ぼくは豆電球だけ消さずに置いておく。
ほんのりと、薄オレンジの明かりが部屋を覆う。
「あったかいな」
布団は初火が感じられる暖かさをまとっていた。
「あっためてたから」
初火がこっちを向いて言い訳するかのようにか細くそう答えた。
寝返りを打ってぼくも初火へ向き直る。彼女からはシャンプーのいい匂いがした。
二人とも小柄ではあるものの高校生が一緒に入るとこのベッドは少し手狭に感じられる。だけど、お互いの体温が感じられて心地よい。
「……初火はさ、ぼくのどこが好きなんだ?」
意地悪な質問になってしまうけれど、初火の口から聞いてみたい。
「んー、わたしを大切にしてくれるとこ」
「そう……」
「お兄ちゃんは、わたしのこと……好き?」
「好きだよ。大好きだ」
それはもちろん、家族としてだけれど。
「……わたし以外にも、妹は欲しい?」
ここで今朝の話が出たか。
「いらないよ。ぼくは初火さえ傍に居てくれればそれでいい。ぼくの妹は初火だけなんだから」
ぼくの唯一、血のつながった正真正銘の家族は、初火だけなのだから。
「……お兄ちゃんがそう言ってくれると、うれしい」
そう言って初火はまた顔を、ぼくの胸にうずめた。
その頭を、今度は躊躇せずに撫でる。
「んっ」
気持ちよさそうに漏れた初火の吐息はぼくの胸へと沁みる。
彼女の髪をすくように撫でる。見た目でわかる、ぼくら兄妹の繋がり。
この薄暗い部屋でもはっきりとわかるほどに赤い。
真っ赤に燃える炎のような髪の色。
存在を主張するようなまでの赤。
初火の大きな深い色の瞳も、スッと通った鼻も、薄くて可愛い唇も、一見してぼくと共通する部分は無い。
人形のようとまでたとえられる可愛らしい初火とは違ってぼくは人並みだ。
だけどこの、染髪OKの月見学園でさえ目立つこの真っ赤な髪だけは、生まれつき共通している。




