ぼくの部屋
ふと、二階の廊下に掛けられてあるカレンダーを見る。すでに来月のにめくられたそれは、明日の日付に初火がそうしたのであろうマークが描かれていた。
……そうか、もう明日でかなみさんがこの家に来てちょうど三年になるのか。こういうのを見ると月日が経つ早さを感じる。
しみじみしつつ部屋まで進むとドアの隙間から電気が漏れていることに気が付いた。
(あれ、消し忘れたのかな? だけど今朝は一度も電気を点けていないし、かなみさんが掃除の時にでもつけたのだろうか)
そんな風に考えてドアを押す。
「あっ」
パジャマ姿の初火が全開にされたタンスの前で小さく声を上げた。
「えっ……と。なんでぼくの部屋に?」
ここはぼくの部屋で間違いないはずなのだが。
初火は時計を見てしまったという顔をしてから、ぼくへ言葉を投げる。
「あの、合宿のときに着るための……その、寝間着用のジャージを貸して貰おうと思って……」
そう言う初火の両腕にはぼくのジャージが大事そうに抱かれていた。
「でも、それってぼくの学校用のジャージだろ? 初火も同じの持ってるじゃないか。それじゃダメなのか?」
別にうちの学校、女子はブルマってわけでもなく、男女共通の一般的なジャージだし。
「その、それは洗濯しちゃってて!」
はて? 初火のクラスは昨日今日と体育の授業は無かったはずだが? クラブに入ってるわけでもないし……。まあ、初火が貸してほしいなら別にいいのだが。
「うん、じゃあ借りていきます」
そう言って初火はジャージをボストンバッグに入れた。
そしてもう一度、初火はぼくの方へと向き直った。その視線は彼女らしくない強いものだった。
「今晩話そうって言ったの、忘れてないよね?」
「覚えてるよ。今から話そうか?」
真摯に視線に応える。声こそ震えていないが、初火の瞳は潤んでいて、安直に言って泣き出しそうだった。
「いや、先にご飯とお風呂行ってきて。これ着替え、はい」
「分かった、ありがとう」
そういって初火はタンスから適当に下着とスウェットを見繕ってくれた。
「じゃあ、ここで待ってるから」
「うん」
短く返して、肩にかけたままだったカバンを机に置き、部屋を後にする。今ぼくの心には関係が修復できるかもしれないという期待と、悪化するかもしれないという不安が同居している。
早く片方に出て行ってほしい。残るのは期待であることを願うばかりだ。
……初火は、どう思っているのだろうか? 別に仲直りしたくないとか思ってたりするのだろうか? そんな不安はしかしぼくの心に居座り続ける。




