帰宅
家に着いたのは時計の針が一九時を回った頃だった。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、陽火さま」
制服のままリビングに声をかけると、いつものようにかなみさんが返事をした。
「今日は少し遅かったですね」
「はい、委員会の仕事でちょっと」
そう答えると、例によって至近距離までかなみさんが近づいてきた。
「それは、お疲れ様です」
「……初火って、もう帰ってきてますよね?」
「はい、一時間ほど前にお帰りになられましたけど」
いつもなら、ソファーでくつろいでいるのに。……やはり今朝のことがあるからだろうか。
「晩御飯は、ちゃんと食べてましたか?」
初火は明日から勉強合宿なのだ。ただでさえ少食なのに食べていなかったら体調を崩しかねない。
中学に入ってからは少なくなったが、小学生の頃はよく学校を休んだものだ。……一緒に。
「初火さまなら、帰ってすぐご夕食をとられましたよ。そのあとお風呂に。今はお部屋で明日の用意をされてらっしゃるのではないでしょうか?」
流れるようなかなみさんの説明に胸をなで下ろす。
兄の醜態を見たせいで食欲を無くしているのではと思ったが、どうやら考えすぎだったようだ。
でも実際、妹がいるのに同級生の女の子に「お兄ちゃん」って呼ばせて喜んで……、喜んではいないが呼ばせている兄を見たら、ひいてもおかしくないだろう。
事態は悪化の一歩を辿っている。ままならないなぁ。
「どうかなさいましたか、陽火さま?」
「いや、食べてたならいいんですよ。何か言ってませんでしたか?」
ぼくの悪口的なコトとか。
「いえ、特にはなにも」
どうやら初火は今日のことをかなみさんには話していないようだ。
もし今日の話を聞いたかなみさんが変な誤解をしたら初火がいない今週末がかなり気まずいことになる。
というかこれからの生活自体が気まずくなる。
彼女には未来永劫、知らないでいることを願うばかりだ。
「じゃあ、カバン置いててきます。ご飯お願いしますね」
「かしこまりました」
そう告げて、自室のある二階へと階段を上った。




