闖入者(邪魔)
――そのときだった。
コンコン。
鳴り響いた瞬間にぼくらは考えるより先に動いた。
ごしゃぁぁ! (ぼくが後ろのベッドにヘッドスライディングをし)
がたがたがた! (木舞さんがぼくの分の食器をシンクに置き)
ばさあっ! (ぼくが布団をかぶる)
さささっ! (木舞さんが居住まいを正しドアに向き直る)
「失礼しまーす。月見里先生、絆創膏くださいますか? 指切っちゃって……あれ?」
布団に包まり、一瞬で帰宅してきた理性で冷静に思考を巡らせる。
声から察するに新人の英語教師(♀)のようだ。
……木舞さんは、ちゃんと冷静に応対できるのだろうか? 酔っていることがばれたら、いろいろ問題になるぞ。
「月見里先生、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
ヤバい、さっそく突っ込まれた。
「えっ……そうですか? この部屋ちょっと暑いからですかね?」
「そうですか? かなり涼しいと思いますよ? 少し肌寒いくらいに」
確かに四月も終盤だがコンクリートの校舎は肌寒い。日が落ちたら特にだ。新人英語教師の声からも訝しむような語調を感じられる。
「……えっと、実はちょっと熱っぽいんでそれでかもしれません。それより絆創膏ですね、すぐに用意します」
うまく切り替えて対応する。よかった、木舞さんは冷静だ。英語教師も納得といった風に呟いている。
「休まなくていいんですか? 私、自分でしますよ?」
マズイ、絆創膏が入っている棚はぼくが隠れているベッドのすぐ近くなのだ。木舞さんヘルプミー。
「いや、大丈夫ですよ。 さっきまで休んでいたのでだいぶ良くなりましたから」
そう言って片手で英語教師を制し、カツカツと靴を鳴らし棚まで行き引き出しから絆創膏を抜き取って彼女へそれを渡す。淀みのない滑らかな動作。
「紙で切ったようですが、これからは気をつけてくださいね」
「はい、授業用のプリントを作っていてついうっかり……、月見里先生もお大事に」
そう言って、最悪か最良かどちらか分からないタイミングでやってきた闖入者は保健室を後にした。
「……陽火、もう大丈夫だぞ」
「はい」
のっそりと、ベッドから起き上がりイスへ座る。木舞さんも向かいの席に腰を下ろす。
「…………あのだな」
「……はい」
……二人とも、もう正気を取り戻していた。ぼくにしても居心地悪そうに視線が泳ぎ、木舞さんは酔いは覚めたが違う意味で顔が赤くなっている。
「……その、さっきのことだが」
「……はい」
まだ、整理できていない様々な感情の中から次に言うべきセリフを探り出そうとする。
「……その、……あれだ」
「はい、あれですね……」
どれだけ探しても乱雑に中身が詰め込まれた引き出しの中からでは、見つかるものも見つからない。




