お説教(羞恥ぷれい)
「うん、ここの店のモンブランはやっぱりおいしいですね」
「そうだな、甘すぎずさっぱりしているからな」
数分の間二人は無言でモンブランをフォークでつついていたが、半分ほど山が削られたタイミングで木舞さんが切り出した。
「陽火、話はもうひとつあってだな……」
「はい?」
お弁当の件以外でということなのだろう。こっちが本題のようだ。
「説教されそうなことに、心当たりはあるか?」
……説教か。木舞さんが珍しい。でも心当たりは無いのだけれど。
「ぼく、何かしましたっけ?」
聞き返すと木舞さんは言い辛そうに口をもごもごさせた後、ぼくの目を見据えた。
その顔は一目見てわかるほどに赤くなっており、瞳も潤んでいる。
「古典の、堺先生に……注意しておくように、言われたのだがな……」
とぎれとぎれに言葉を紡ぐ木舞さん。
……古典? あった心当たり。ぼくは今更に自分の蛮行を思い出した。
「その……授業中に、教師の話を聞かずに……読書とは、あまり……ほ、誉められたことでは、ないのは……わかるな? ……それも、その……いかがわしい内容のものだったと……聞いている、のだが……?」
『いかがわしい』のあたりで木舞さんは限界を迎えたらしく赤面どころか首のあたりまで真っ赤になっている。
フォークを持つ手も同じように赤い。
ヤバい。言い逃れ不可能なのだが。なぜあの時、ぼくはブックカバーを外してしまったのだろうか。
「いや、それはその……」
言い訳するのはよくない、そんなことは分かっている。しかし、この場合は素直に認めてしまうのも悪い気がする。
というか、あの古典教師なにチクってくれてるんだ。女性教師にこんなことを注意させるなんてセクハラものだろうぞ。男なんだからせめて自分で言いに来いよ!
心の中の叫びは古典教師には届かず、木舞さんが言葉を続ける。
罪悪感で死ねそうだ。
「……この年頃の、男子なら……そういうことに、多少、興味があることは……その、知っているし……仕方がないことだとも、思うぞ?
だけど、授業中にまで……その、そういう本を読むのは……。せめて時と場所をわきまえるべきだと、私は思うんだ」
優しく言い聞かせるような木舞さんの口調が余計に心を削っていく。ぼくはなんてことをしてしまったんだ。
授業を聞かずに本を読んでいたのは、まだいい。だが木舞さんにこんなつらい役回りをさせてしまったことは心底申し訳ない。
罪悪感で死にたくなった。
「ごめんなさい。魔が差しました」
我ながら無様な謝罪だ。しかし木舞さんにこれ以上負担をかけさせないためにも、ぼくは謝った。謝ることしかできないのだ。
「いや、うん。反省しているのなら良いのだ」
……もう許した、という風に頷いている木舞さんだが、さっきから目を合わせてくれない。中学校入学以前から続いていた仲の良かった関係には完全に亀裂が入ってしまったようだ。
残り四分の一ほど残ったモンブランを食べる食欲はもうない。木舞さんもフォークを皿と口の間で往復させてはいるが残りわずかになったそれは減っていない。
……もう、今日は帰ろう。初火のこともあるし、これ以上ここに留まることはままらない。




