モンブランと保健室
「まぁ、立ち話もなんだから座れ」
そう言って木舞さんは彼女が座っている向かいの席を勧めてきた。
こうして保健室で座っていると、今朝の水萌とのことを思い出してしまった。
……しましまだったな。
そんなことより木舞さんだ。説教だろうか? そんなものはことの序でで済ますタイプの人なのに。
「いや、あのだな……今日は昼休みに保健室に来なかったなーと思って」
「……えーっと」
つまり仕事を忘れていたのを咎められるとかじゃなくて、昼休み保健室に弁当を食べに来なかった訳を尋ねられているのか。
「そういうことだ」
「べつに今日は友達と教室で食べてただけですけど」
特に理由なんてないのだが。
「いつもはここで食べてるのに?」
「今日はなんとなく教室で食べたい気分だったんですよ」
本当は臨視に読まされた本のせいでここに来づらくなったのだが。
「そうか……保健室で私と食べるより教室で友達と一緒食べる方がいいのか?」
「えっ? そんなことないですけど……」
木舞さんが意外にも悲しそうな顔で、拗ねたような口調で聞いてきたため戸惑ってしまう。
「なら、これからはまた食べに来てくれるのか?」
今度は少し明るめに問われた。これはこれで戸惑ってしまう。彼女がこんなに感情を表に出すのも珍しい。
「いや、もしかしたらこれからは教室で食べることが増えると思います」
「初火の言っていた妹(仮)ちゃんか?」
……水萌のことか。初火のヤツ、木舞さんに相談したのか。しかもピンポイントで誤解を生む部分だけを見ていたから、彼女にもそう伝わったのだろう。
「初火が放課後に来て言っていたぞ? 何やら陽火がクラスメイトに妹の真似事をさせていたとか」
「それは誤解ですよ。彼女はただの幼なじみってだけです」
お兄ちゃんと呼ばれていた件については昔の名残というか、決して変な意味はなく。
「そうか、でも今日は彼女と一緒にお弁当を食べたのだろう?」
なんでそんなことを知っているのかは置いておいて、
「クラスメイトですし、珍しいことではないと思いますよ?」
たぶん普通にあることなのだろう。みんなもそうしていたし。
「しかし、付き合ってもいない男女が二人でお弁当を食べるのはあまり普通とは言えないだろう?」
……そうなのだろうか。
臨視にも言われたが、その辺の事情についてぼくは少し疎いからな。
「でもそれを言うならぼくたちだって入学から三週間、毎日二人でお弁当を食べていたじゃないですか」
約束したわけでもないし、ぼくが勝手に来ていただけだが。
「私はあくまで教員だからな。この部屋の管理と養護教諭を任されているからここにいるだけだ。そこに自らが受け持つ委員会の生徒が来て、一緒にご飯を食べるということは変な話ではないだろう」
そうなのか、ならこれからはまた保健室で弁当を食べることにしよう。変な噂が立つと水萌も困るだろうし。気に入ったんだけどな、教室で友達と食べる弁当。
「ま、まあそうした方がいいだろうな。うん」
そう言って木舞さんは紅茶を入れてくれた。ほんのりと苦くてケーキによく合う。




