呼び出し(ついでに先生のパシリ)
送信主を確認する。
『from 月見里木舞』
月見里木舞。月見学園の理事長の孫娘で保健室の管理及び保健委員会の顧問を任されている養護教諭。ぼくの上司的な人である。
「何の用だろ?」
基本的に、業務連絡にしか使ってはいけない生徒のアドレスを、あの人は平気でプライベートなことに使うからな……。
『件名 早く来い』
さて、何の用だろう。直接言いたいことでもあるのだろうか? それとも、単に長文を打つのが面倒だからだろうか?
『本文 ちょっと、駅前のケーキ屋でモンブラン買ってきてくれ』
「なんでだよ!」
メールに対して思いきりツッコミを入れてしまった。しかしこれは、常識人であるなら誰しもツッコムであろう内容であることは確かだ。
「ど、どうしたの?」
水萌が戸惑った表情で尋ねる。
「いや、メールの内容が意味不明過ぎて。……ってあれ、ちゃんと続きがある」
『用具の補充をしておくように頼んでたはずだが?』
「ああっ! 忘れてた!」
木舞さんが言っているのは、今朝ぼくがするはずだった消毒液と保冷材の補充のことだろう。水萌に意識をとられていたためすっかり失念していた。
ていうか、保健室よったのによく思い出さなかったな、ぼく。
「ごめん、学校戻らなきゃ。先生に呼び出しくらっちゃった」
「ええー、もう行っちゃうのー?」
悲しそうな目でこちらを見てくる水萌。行かないでとばかりに袖を弱々しく引っ張ってくる。ドナドナが聴こえてきそうな雰囲気だ。見ているととても申し訳ない気分になる。
「ちょっと保健委員の仕事忘れちゃってて」
「……じゃあ、しょうがないね」
言葉とは裏腹に水萌の小さな手のひらはぼくの袖を離してはくれない。
仕方がないのでそのまま玄関へと向かう。
行きづらいなぁ……。
しかし、仕事は仕事だ。責任はきっちりと果たさねば。
「また休み明け、学校で」
「うん、ばいばい」
水萌は玄関を出るとさすがに観念して手を離してくれた。
「また来てねっ」
「また来るよ。お茶ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
そう言って、水萌はぺこりと可愛く頭を下げた。思わずその頭を撫でる。
「じゃあ」と、別れを告げて学校へと歩を進める。急がねば木舞さんの機嫌が悪くなる。
そうしてぼくは見送る水萌の視線を背に受け……ケーキ屋へと方向転換した。




