放課後
数時間後、何事も(多少眠気がさしたが)無く放課後が訪れる。
「気をつけて帰れよー」
担任の言葉で生徒たちはクモの子を散らすように教室を出る。
「ぼくも帰ろうっと」
呟いて扉の方を向くと水萌と目があった。
「あ、水萌……」
すると、水萌は頬を染めて教室から出ようとした。ぼくに気づかなかったのかな。
「おーい、水萌」
早足で追いかけると教室を出たところで追いついた。
「どうしたの? 陽火くん。い……一緒に帰ろう……とか?」
見ると水萌は視線をあちこちと泳がせている。
「え? ごめん、今なんて?」
「なっ、なんでもないよ? 陽火くんはなにかな?」
「脚、大丈夫か?」
「……心配性だね陽火くんは。全然大丈夫だよ?」
ちゃんと処置しといてよかった。それなら安心だ。
「いやぁ、もしまだ痛むんだったら送っていこうかと思って……」
「うう」
途端に水萌が膝のあたりを押さえてうずくまった。
「いたたたた……」
「どうした、水萌!」
「あしが、また痛み出したの」
なん……だと……。治っていなかったのか?
「大丈夫か?」
水萌はうずくまったままうめき声をあげている。こんな状態じゃとてもじゃないが一人では帰れないだろう。
「うぅ、大丈夫だよ。あたしを置いて先に行って!」
「いやいや、送って行くよ。ぼくのせいでもあるんだし」
いや、先に病院に行った方がいいかな?
「いや、家まで送ってくれるだけで十分だよ! むしろ、そっちの方がいいよ。うん」
「そうか、分かった」
手を貸して水萌を支える。……しかし、さっそく第一関門。
「階段下りられそう?」
聞いてみたが無理だろう。現状水萌は、ぼくに体重を預け何とか立っているような状態だ。どうしよう。エレベーターがあるのは向かい側の棟だし……。
「……おんぶ」
「ええっ!?」
思わず驚きの声が上がる。
放課後ということもあり生徒の数はかなり引いてきたが、それでも部活動のため校内に残っている生徒は相当数いる。
そんな中でおんぶなどしたら生暖かい目で見られることは必至だ。正直耐えられそうにない。
「あし痛いなぁー。おんぶしてほしいなぁー。階段の下まででいいんだけどなぁー」
「………………」
そんな心配をよそに、小動物のような目で訴えかけてくる水萌。
「ねえってば、陽火くん」
降参だ。あんな目を向けられておんぶをしない男がいるであろうか。いや、いない。
ぼくは無言で背を向ける。生暖かい視線がなんだって言うのだ。そんなものはあの瞳の輝きの前では道ばたの石ころ同然だ。
「えへへ」
背中におぶさった水萌が笑いかける。ご機嫌なことで。
「おんぶしてもらうのなんていつ以来だろー」
教室では見せない、水萌の子供っぽい様子は見ていて微笑ましい。どっちが素の彼女なのかは分からないが、こちらの方が昔に戻ったようで嬉しい。
「ぼくも、おんぶなんてしたの小学生以来だよ」
「……重くない、よね?」
「うん、よゆーだよ」
水萌はかなり小柄だし女子の中でも華奢な方なのだろう、体重もかなり軽い。
……それに、暖かみのある心地よい重さだ。
しいて言うならぼく自身の身長がそれほど高くないので、もう少し背が高ければおんぶもしやすかっただろうということだ。これからの活躍を期待しよう、成長ホルモン。
一階まで下りると
「もういいよ、陽火くん。ありがと」
水萌の声に合わせて膝を曲げる。感想として、水萌は小っちゃい割に小っちゃくなかった。何の話かは言わないが。
「歩けそう?」
「うんっ」
背から降りた水萌の足取りは……かなり軽かった。あれ? 痛みとか皆無なんじゃないだろうか……。
「早く帰ろ、陽火くんっ」
「まあ、別にいいか」
呟いて校外に出た水萌の隣に並ぶ。




