予鈴から授業開始までの五分間
予鈴が鳴り徐々に昼休みの喧騒が静まりだす。
それに倣うようにぼくも水萌も席に着き、次の授業の用意をする。
「おい、陽火」
……もしかしたらそっとしておいてくれかも、と淡い期待を抱いていたのだが世の中そんなに甘くはなかった。
「なんだよ臨視」
「なんだあれは」
「あれって?」
ナンノコトカナ?
「本当に心当たりが無いか自分の胸に聞いてみろ」
もしもーし、心当たりはありますかぁー?
……返事が無い、心当たりは無いようだ。
「……ボクが聞きたいのはな、陽火。なんで日向さんとあんなに仲良くなれたかってことだ」
「真面目にやってきたからだ」
「ふざけんな! 真面目に答えろ!」
別にふざけてはいないのだが。真面目にしているわけでもないが。
「いや、実はぼくと水萌は幼なじみなんだ。今朝それに気づいた」
「……まあいいだろう。では何故『お兄ちゃん』と呼ばれたんだ?」
目ざとい奴め。
「幼なじみだし。ふざけてただけだろ」
「でも『お兄ちゃん』だぞ!? ダメだろそれは!」
そんなにダメなのか?
確かに言われるとドキッとするが、臨視が好むようなそんな感じのとは無関係なのではないのか?
「ホントに無知だなきみは……」
あきれたようにカバンを開け文庫本を取り出す。
大きさが違うから、今朝読んだのとは別のものだろう。
「きみのことだから本気で言っているんだろうが、しかし妹という存在が世間からどのような目で見られているのかを、きみは知る必要がある!」
「…………」
タイトル『妹(ピー』
驚かないぞっ! ぼくはこの程度じゃもう驚かないぞ!
……あれ? なんでこいつはこんな本を何冊も学校に持って来ているのだろう?
まあ、変態だし。今更気にすることもないだろう。
しかし、
「午後の授業はさすがにちゃんと受けたいから、返すのは休み明けでいいか?」
午前中は『保健室~』のせいでおざなりだったのだ。
「もちろんだ。では宿題ということで貸しておこう」
ぼくは借りた本をカバンに仕舞った。
段々コイツに毒されていってるな、ぼく。
「それともうひとつ、」
臨視が続ける
「メイドさんってふざけてるだろ」
「何言ってるんだ? かなみさんは誰よりも真面目だ」
眉をひそめた臨視がカバンに手を突っ込みまさぐる。嫌な予感。
「メイドさんじゃなくてきみだよ。ふざけてるのは」
引き抜かれた臨視の手に握られていたのは……またもや文庫本。
もう慣れた。ぼくは渡された本を特に確認せず自分のカバンへと入れる。
午後の授業開始のチャイムが校内を完全に沈黙させた。




