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ふれあい  作者: 日寝月歩
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級友と衝撃の事実

「私立月見学園――ここらでは有名な月見里財閥が地域活動の一環として造った進学校であり、授業料も私立にしてはかなり良心的なので、市内での中学生からの人気は高い。よって校風も非常に穏やかで過ごしやすい」

週末でなおのこと気楽なはずなのに、だが今晩のことを考えると少し憂鬱だ。

「急にどうしたの? なんで学校紹介したの?」

 教室へと向かう廊下の中、謎のタイミングで脈絡のないことを話し出したぼくに、水萌がもっともな事を問いかけた。

「いや、なんとなくな。そういえば初火も水萌のこと気づかなかったみたいだな」

「そうだね。でも、仕方ないんじゃない? 初火ちゃんは陽火くんのことしか見えてなかっただろうし」

 ……そこは、髪の色が変わっていたから気づかなかっただけであってほしい。妹が兄の醜態を見て、まわりが見えなくなるほど取り乱したとか嫌すぎる。

 会話は教室についたことで終了し、丁度席に着いたところで本鈴が鳴り始めた。


 鳴り響いたチャイムの後、担任が本日の予定など細かな連絡を始めた。

 担任の声のが教室に響く中、後ろから小さく声がかかった。

「ねえ、陽火どういうことだい?」

「なにがだ?」

 声をかけてきたのは級友の……嘘を吐いた。こいつは友達ではない、ただのクラスメイトである生島臨視(いくしま のぞみ)だった。

 簡単に紹介すると、見た目は中性的な美少年だが中身は救いようのない変態である。

「なにがって、今朝どうしてきみが日向さんと一緒に保健室から出てきたかってことだよ」

 どうして知ってるんだよ、保健室の周囲に人気はなかったと思うのだが。

「別に、何でもないよ」

 細かいことは気にせず、面倒なので適当にあしらう。

「何でもないわけないだろ! だって保健室だぞ!」

 ……あしらえなかった。

「保健室だからどうしたんだよ?」

 水萌の勘違いもそうだが、保健室にはぼくだけが知らない何か特別な意味合いでもあるのだろうか。

「それ本気で言ってるの?」

臨視が身を乗り出し声を上げる。クラス中の視線が一手に集まる。

 ぼくまで目立つからやめてほしい。

「どうした、生島?」

「あ、いや、なんでもないです」

 担任に促され席に着く。ぼくまで睨まれてしまったではないか。

「それで、なんで保健室がマズイんだ?」

 注意されたことも手伝って声のトーンを下げ臨視に尋ねる。

 こいつに聞くのは気が進まないが、聞かぬは一生の恥とも言うし本音を言えば気になって仕方がないだけなのだが。

「……はぁ」

 ため息をついてやれやれと言わんばかりに首を振る臨視。なんか無性に腹が立つ。

「ほんと、きみは勉強不足だよね……そういうことを全く知らないってわけでもないのに」

「何のことだ? 勉強ならお前よりできてる自信はあるぞ」

 恐らくは保健体育以外。

「そこが問題なのさ」

 そういって臨視はカバンからブックカバーの施された文庫本を一冊取り出しぼく

はそれを受け取る。

「なんだよ、コレ?」

「それでも読んで勉強しろということさ」

 ブックカバーをめくりタイトルを覗く。

『保健室の(以下略』

 さすがにそういった感じの本だと察しがついた。だって表紙からして……だもん。

 誰がこんな本読むか!

 突き返そうとしたが、よくよく考えてみればこの本を読まなければ保健室の謎を解き明かすことはできない。

 さらにクラスメイトの(悪意が含まれてはいるが)厚意を無下にするのも悪い気がする。

 幸いにも一時限目の古典の授業は読書していても特に問題はない。

 さて、お勉強の時間だ。 

~十分経過~

「これは……」

~さらに十五分経過~

「なん……だと……」

 ここで邪魔になったのかブックカバーを外してしまっていた(ようだ)。夢中になっていたから無意識のことだろう。

 初老を迎えた気の弱そうな古典教師はそれに気が付いてはいたものの、一瞥しやるせないという風に首を振っただけで注意はしなかった。(らしい)

~一時限目終了~

「……まじかよ」

 授業終了とともに読み終えた本を閉じ、絞り出すように呻く。

 衝撃だ。ぼくの憩いの場所であるところの保健室が、一般的にこんなことに使用されていると認知されていたなんて。

 水萌はこのことを知っていたから保健室を敬遠していたのだろうか……

「もう読み終わったのかい? 早いね。で、どうだった? そして人が親切にも付けておいたブックカバーを外すとはどういうことだい? 剥き出しで読むとか正気か?」

 指摘されまずブックカバーをかけ直す。よくよく考えてみたら正気の沙汰ではなかった。

「……まあ勉強にはなったかな」

「そうだろう、きみの役に立てて光栄だよ」

 そういってにやけた顔をしながら臨視は、差し出した文庫本を受け取りカバンへ戻した。

 にやけ面なのに顔立ちが整っているためいやらしい感じが全くしないのが腹立たしい。

 ここから午前中の残りの三時間、授業に全く集中できなかったぼくを責められる者はいないだろう。


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