一 [7/15]
ソラは一度裏口から外へ出て、そこにおいてあったジャガイモと玉ねぎをとり、畑からニンジンを抜いた。
「カレー?」
その材料を見て与羽は尋ねた。
「シチューですよ。クリームシチューなんていかがですか?」
「まぁ、悪くないんじゃない」
与羽はどうでもよさそうに答える。
「ありがとうございます。食べ物アレルギーとかなかったですよね?」
「ん~、ない。それが食用である限り」
「あなたを毒殺するつもりはありません」
「分からんで?」
与羽は意地の悪い笑みを浮かべた。
「自分にはとっても好きな人がおる。けど、どんだけ言い寄っても相手にしてもらえん。何としても彼女を自分のものにしたくて、終いには殺してしまう」
「わたしがそんな事するとでも?」
「アハハハハ。ムキになんなよ。誰もあんたの事とは言っとらんじゃん。
――お、雷乱ありがと。ちょっと防虫剤臭いな」
与羽は雷乱からつやのある黒い布を受け取って言った。
「雷乱もどうぞ座ってください」
ソラも気を取り直す。与羽は言われる前から座っていた。
「ああ」と雷乱は返事して、与羽の隣に腰掛けた。
ソラは目が見えないのをものともせず、野菜の皮をむき切っていく。
「矢の威力上げるためか、辺りの天力を探りやすくするためか知らんけどさ、ソラ。こういう時はその目元ん布とってもええんじゃない?」
どうでもよさそうな、けだるげな口調で与羽が言った。
「いやです」
ソラは即答した。
「何で?」
「ずっと布を巻いていたので、日焼けの跡があるんですよ。目の周りだけ白くて、他が黒いんです。一人きりならともかく、あなたにそんな恥ずかしい顔見せられません」
「もっともらしいこと言うなぁ。本当の事言えよ」
「何で嘘だと分かるんです?」
「カンじゃよ。私のカンは当たるんじゃ。青麗の予知並」
「百発百中じゃないですか」
青麗は未来の出来事を昨日の事と同じ正確さで語ることができる。
「そーゆー事。さっ、話せよソラ」
「理由の一つは、こうやって家にいる時でも万年の夢の外――烏羽玉の様子を知るためです。目を封じる代わりに遠くの気配まで感じられるようにしてありますから」
「二つ目は――?」
「……助け舟です」
「ん?」
「お風呂が沸いたみたいですよ、与羽。シチューができるまでに入ってください」
ソラは口元に笑みを浮かべ、与羽は眉間にしわを寄せた。
「全く。逃げるの上手いな、あんた。覚えとけよ?」
「だてに年はとっていません。何をするつもりか知りませんが、そう簡単にはやられませんからね」
「まぁ、気ぃつけろ」と与羽はいたずらっぽく笑う。
「雷乱、一緒に風呂入る?」
「必要ねぇ。だが、どうしてもって言うんなら、辰海の姿で背中を流すくらいはしてやるぜ」
雷乱はニッと笑って、与羽と親しい青年の名前を出した。
「あんたも年食って小賢しいんよな」
与羽は呟きながら布を肩にかけて、家の奥にある風呂へ向かった。