一 [2/15]
青麗の屋敷は他の家と同様石造りだが、何倍も大きい。
ここまで足を運ぶ人は少ないので、辺りはしんとしている。
濃い色の木の扉は開け放たれ、淡い色のレースがかけられていた。青麗が屋敷にいる印だ。
「青麗様。外守、ソラです」
レースの前に立ち、そう呼びかけると「入りなさい」と高く澄んだ声が答えた。
ソラは「失礼します」と声をかけてから中に入った。白銀は入らずに外で待つ。
中は薄暗かったが、両目を布で隠したソラには関係ない。様々な香が混ざった何とも言い表せない匂いがする。
ソラは目が見えないのをもとともせず、青麗の前まで歩み寄ると、洗練されたしぐさで会釈した。
青麗は三十すぎ位の落ち着いた容姿と雰囲気を持つ女性だ。
彼女が向かう大きなテーブルの上には水晶玉やひびの入った動物の骨、暦や天文図、トランプやタロットなどのカード類が一面に置いてある。
「占いの途中でしたか?」
「そうですが、いつもの事でしょう?」
青麗はにこやかに答えた。確かに、ソラがここを訪れた時、青麗が占いをしていなかった事など一度もない。
「いかがですか?」
ソラは占いの結果を尋ねた。青麗の占いは過去のことを語るように間違いがない。
「凶兆です。詳しくはまだ分かりません。万年の夢のみなさんがまだ騒ぎ立てていませんから、当分先の事なのかも知れませんが、与羽さんがわざわざいらっしゃったということは、外ではそれだけ大変な事が起きているのかも知れません。
与羽さんのお話を聞きましょう。多少の規則違反は大目に見ます。連れてきてください」
「分かりました」
ソラはそう返事して、通りで独裁主義について議論を交わしていた少女――与羽を呼び寄せた。自分より三百歳ほど年上の男を言い負かしている彼女はもっと見ていたかったが、仕方ない。