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三 [11/11]

 与羽(よう)の手の水の剣が消えた。

 目がかすむのを眉間にしわを寄せて必死に耐えた。

 しかし、頭に靄がかかったようになって、体の感覚が鈍くなる。顎をつかんでいるはずの暗鬼(あんき)の手も、自分の頭に触れた暗鬼のほほもひどく感じにくい。


「……小娘」


 雷乱(らいらん)が苦しげに与羽を呼ぶ。雷乱は与羽に使役された精霊だ。与羽の状態の変化が彼にも影響を与えているらしい。


 暗鬼は与羽の手に短剣を握らせた。


「さあ」


 そして、暗鬼は与羽をソラに向けて放り出した。暗鬼自身は大きく飛び退る。


「今回はひいてあげる」


 着地と同時に、陣が広がった。転移の陣だが、ソラにそれを防ぐことはおろか、見極める余裕すらない。

 ソラに向けられた与羽の短剣を交わした瞬間、彼女の刃先が自分の首を向いたのだ。暗鬼に向けて攻撃を加えようとしていたソラは、与羽の自害を止めさせる方に意識を向けざるを得なくなった。


 短剣を持つ与羽の腕をつかみ、舌を噛み切ろうとした口に自分の手を噛ませる。


「与羽! しっかりしなさい!」


 そう叫びながら、ソラは与羽に触れたとことから自分の天力を流し込んだ。与羽の意識を混濁させ、体を操っている暗鬼の天力を追い出し、払うために。

 しかし、それは正しい処置とは違う。流し込む天力量を間違えたら相手を殺しかねない荒療治だ。成功しても、数日は副作用があるだろう。


 急に他人の天力が流れ込んできたショックで気を失った与羽を支えながら、ソラは暗鬼のいたほうを見た。

 しかし、そこには崩れた陣があるだけ。それも、翡翠の燐光を放ちながらゆっくりと消えていった。


「これは……。追えませんね」


 崩れていく陣の内容を読み取って、ソラはつぶやいた。あの一瞬で描いたとは思えないほど複雑に転移先の情報を隠してある。


 ソラは息をついて与羽を抱えなおしながら、あたりの状況を探った。


「雷乱、大丈夫ですか?」


 人の姿でうずくまる雷乱にそう声をかける。


「大丈夫なわけあるかっ!」


 雷乱はかすれた声で何とかそう怒鳴り返した。


「小娘の天力の乱れがオレにも影響してんだよ。もう少しマシな助け方しやがれ」


「申し訳ありません」


 ソラはそう頭を下げた。


「お前の精霊は何してんだよ!?」


「彼には暗鬼以外の敵の捕縛を命じています。そろそろ、完了しそうですね」


 ソラは辺りの様子を探りながら言った。


「与羽を安静にしなくてはなりませんし、他のみなさんのところへ戻りましょうか」


 そう言って、ソラは意識のない与羽をやさしく抱え上げた。

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