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三 [10/11]

「くっ……」


 暗鬼(あんき)が杖で雷乱(らいらん)をはらい落とす。

 雷乱は火の粉をまき散らしながら地面に叩きつけられた。

 一方の暗鬼も杖を持っていた右手から肩にかけてやけどを負っている。纏っていた黒い服の袖が焼け落ち、闇夜に赤く黒くただれた腕がさらされた。


 しかし、暗鬼が腕の治療をする間もなく、雷乱を追うように迫っていた与羽(よう)が暗鬼との間合いを詰める。右手には自身の天力で作り上げた水の剣がある。

 いつも媒体として使っている鉄扇――流王がないので、燃費がひどく悪い。

 これまでの戦いもあり、天力は尽きかけている。

 与羽は霞みそうになる目に力を入れ、追い風を起こして加速しながら暗鬼に迫った。


 しかし、暗鬼もやけどのダメージを感じさせないすばやさで半身になって与羽の剣をかわす。

 そうしながら、与羽の剣を持つ腕をつかみ、ひっぱりあげた。


 前への勢いがあったため、与羽は容易に体勢を崩した。背中から地面に倒れそうになったところを、暗鬼の風の天力が包み込み立たされる。

 剣を持つ腕はつかまれたまま、あいた手で首を上向かされた。


「ぐ……」


 与羽の口から苦しげな声がもれる。その腕を矢が掠めた。ソラが暗鬼に射ろうとしていた矢だが、暗鬼が与羽を盾にとったために慌てて的をそらしたのだ。


「動かないで」


 暗鬼がやさしく言った。


「確かに、僕は操りと陣術をメインに戦うから、接近戦は苦手だ。でも、この子の首をへし折れるくらいの力は持ってる」


 暗鬼が与羽の顎をつかんだ手に力を込めた。その苦しさに与羽が爪先立つ。

 抑えられた右腕もピクリとも動かせない。それどころか自由なはずの左腕も動かなかった。

 暗鬼の術で縛られているようだ。人を操る能力を持つ彼には、動きを封じるくらい造作もないのだろう。


 苦しげにあえいだ与羽の鼻腔を血と甘酸っぱい果物の匂いがついた。どちらも暗鬼から漂ってくるものらしい。

 不釣りあいな匂いに混乱して酔いそうだ。


「この距離なら操れそうだ」


 与羽の耳元で暗鬼は低くささやいた。与羽の体にぞくりと震えが走る。


「守護の神のお守りを奪いたいところだけど、下手に触ったら弾かれそうだからね」


 与羽の顎を抑えた暗鬼の手の甲に陣が浮かぶ。そこから冷たいものが与羽を覆った。

 与羽の頭に暗鬼のほほがふれる。しかし、その目は注意深くソラに注がれ、すきがない。

 与羽を人質に取られたソラと雷乱は動けない。

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