二 [8/10]
与羽は水中とは思えない素早さと優雅さでかわしていくが、五本の槍は人が無傷で生還できないよう、与羽の動きを読み突かれていく。一本目は避けたものの、二本目は額をかすり、三本目は長い髪を一房切った。
ソラは弓を引いた。
鋭い風切り音と共に矢が相手の胸に吸い込まれる。
四本目は着物のそでを裂き、五本目は相手の手から落ちた。
水球が崩れる。
与羽は自分の力で水球を操り、無事に落下した。
「殺したんか?」
与羽はぴくりとも動かない水球使いを見て尋ねた。
「いえ、急所は外しました」
ソラはさりげなく与羽の額の傷を塞いでやりながら答える。
「冷静じゃな」
「ありがとうございます。大丈夫ですか?」
「龍姫を甘く見んな」
与羽は自分の左ほほにある龍のうろこの痕を指して言った。
「そうですね。少しあなたをあなどっていました」
ソラは与羽に調子をあわせる。
与羽はそれを無視して、切られた自分の髪を拾った。
「もったいないよなぁ、これ」
そう独り言を言い、髪を懐に押し込む。
「もう、ほとんど片付きましたね」
ソラは与羽の気を引くために言った。辺りには気を失った人々が転がり、天力を封じられた精霊が座っている。
「こちらの被害は少ないようです」
「そりゃぁ、弱かったもんこいつら。あんたら本当にこんな奴らに苦しめられとったん? こいつら本当に暗鬼の手先?」
「本物のはずです。しかし、わたしも手ごたえのなさに……」
ソラはハッとして辺りを見回した。目は見えなくても、この癖はなかなか抜けないらしい。
「どったん?」
「……嫌な予感がします」
ソラは答えた。
「予知的なやつ?」
「そんな感じです」
ソラはそう言い、自分の着ているローブの首に手を入れ、七宝焼きのついた銀の鎖のネックレスを取り出した。
七宝焼きは黒地に、一筋赤い線が入っている。
「守護の神のお守りです。これを身につけておいてください」
ソラは早口に言い、与羽に手にお守りを押し付けた。
「あんたのじゃなぁん?」
与羽は受け取りながらもそう尋ねる。
「そうですが、これはあなたが持っておいた方が良いでしょう」
ソラは与羽の手からお守りを奪い取り、与羽の首にかけてやりながら言った。
「守護の神、玉苑。どうか彼女にあなたの加護を」
ソラの言葉にこたえるかのように、お守りの七宝焼きがきらりと光る。




