序 [2/2]
「ソラ……」
男は射抜かれた足を抱えて記憶を探るようにその名を呟いた。
「なるほど。お前が『夢見最強』か」
じりりと後退する。
「もし、本当に万年の夢に用があるならば、次は正規の手続きを行ってください」
相手が戦意を喪失したことを察して、ソラは告げた。
「余計な世話だ」
男は不機嫌な口調で言う。
そして、足を引きずり、血を転々と落としながら一足早く暮れた木立の闇に消えていった。
ソラはそちらが万年の夢から離れる方向だと確認して、ボウガンを纏っている黄色い布の下に隠した。
「捕らえなくてよかったのか?」
「相手はすでに手負いです。他の方がやってくださるでしょう」
この森の中にはソラ同様、丘を守るために武装した人々が何人もいる。あとは彼らに任せることにした。
「今は、他にも迎えなくてはならない方がいらっしゃいますから」
ソラは口元に笑みを浮かべ、上を見上げる。
「運命の流れが大きく変わった。コトがだんだんこじれてきましたね。白銀、次は上です」
「上? でも、この気配は――」
「ええ、排除はしませんよ。しかし、迎えに出なくては」
「全く」
麒麟は困ったように呟き、さっと銀色の鳥の姿になった。
ソラがその翼の付け根に手をかけた瞬間、白銀は細いが大きな翼を広げ、空に舞い上がった。傾いた西日に当たって、ソラの銀髪が炎のように赤く染まる。
白銀は優雅に高度を上げていく。
そこにちょうど万年の夢方向に飛んでいた赤い鳥が近づいてきた。夕日に染まって帰ってきたような鳥は、頭が赤く、尾にいくにつれて淡い黄色へと色が変わっていく。翼は広く力強い。頭にひとつかみの羽根が逆立っているのが特徴的だ。
背には小柄な女主人を乗せている。
二十前後に見える彼女は、ソラに向かってすっと左手を挙げた。風に流される長い黒髪が夕日を紫に跳ね返している。
ソラも軽く手を挙げてあいさつした。
「久しぶりじゃな、ソラ。悪いけど、このまま空中突破するで」
彼女は言った。
本来、夢見の領土は国境を守護する外守以外は歩いて入るのが決まりだ。そうしなければ、ソラのように飛び道具を持った外守に打ち落とされる。
「ええ、結構です。あなたは半分夢見みたいなものですからね」
「ありがと」
彼女は伏せていた顔をあげ、軽くほほえんだ。黒目がちな青の混ざった紫の目が彼女を幼く見せている。
「まぁ、それをねらって、わざわざソラのおる方向に回り込んで侵入したんじゃけどな。――今日、青麗はおるか?」
「いらっしゃいます」
急に事務的な口調で尋ねた少女に、ソラも低く落ち行いた声で答えた。
「できるだけ早く話がしたい」
「分かりました。先に言ってそのむねを伝えておきましょう。――白銀」
ソラが呼びかけると、鳥の姿をしている白銀は無言でスピードをあげた。少女達は減速したので、あっという間に差が開く。
ソラは風の抵抗をなくすために白銀の背に伏せ、滑らかな羽毛にほほを当てた。