一 [11/15]
翌日もソラの機嫌は最悪だった。白銀の用意してくれた朝食を紅茶で流し込む。
一方で白銀は機嫌がとても良い。昨夜、与羽に天力の回復を助ける蜜をもらったおかげで、非常に体調が良いのだ。
朝食が終わりボウガンの手入れをするソラの横でニコニコしている。
「白銀」
ソラはイライラした口調で声をかけた。
「元気そうですね」
「そうだな。与羽にもらった蜜が効いた。最近侵入者が多くて天力が減り気味だったし、昨日は空を飛んだから、なおさらな。いつも与羽を乗せて長距離を飛んでいる雷乱には頭が下がる。まぁ、与羽は軽そうだし、ちゃんと毎日気を使ってもらってるんだろうな」
白銀はやはりご機嫌だ。
ソラはため息をつき、ボウガンをテーブルに置いて立ち上がった。
「ソラ?」
ソラの機嫌を損ねすぎたのかと心配して、白銀は彼の様子を窺う。
「内守の残菊さんですよ」
少しだけ口元に笑みを浮かべ、イスにかけておいた黄色い布をまとい、ドアを開けた。
そこに立っていた女性は見た目こそ二十後半だが、身につけている布は百年から三百年夢見にいることを示す青だ。
彼女は白いほほをリンゴのように真っ赤にして、扉をノックしようと挙げていた手を慌てて胸の前に押さえつけてごまかした。
「おはようございます、残菊さん。どうかされましたか?」
ソラはさきほどまでとはうって変わり、夢見らしい穏やかな口調で尋ねた。
「朝早くにすみません、ソラ様。与羽ちゃんに挨拶がしたくて……」
「ああ」
ソラは納得したような声を出した。
与羽と彼女、残菊は友人同士だ。万年の夢にいるのはほとんどがソラのような腕のたつ外守か、占いに長け族長青麗の世話をする内守。どちらも多くが長生きしている人ばかりで、ここ万年の夢で黒や青の布を身につけている人はほとんど見かけない。
万年の夢は石畳の色同様、緑が圧倒的に多い。
年上の人に囲まれて生活している残菊にとっては、与羽は年の近い気の許せる存在なのだろうと、ソラは心得ている。
「残念ながら、与羽はまだ来ていません。そこにいませんでしたか?」
広場の方を指差して尋ねながらも、ソラは辺りに神経を集中して与羽の居所を探った。目を封じたソラが集中すれば、普通の人が目で見渡せる範囲くらいまで天力を感知する事ができる。
感じとしては、満月の明るい夜に辺りを見るのに似ているだろう。物体は色こそ感じないものの細部まで形を知る事ができるし、天力の光は色付きでとてもはっきりと分かる。
ただし、遠くになるにつれて大気中の天力が邪魔してかすみがかって曖昧になってくる。そうは言っても、万年の夢とその周りの烏羽玉のほとんどの様子は把握できる。もちろん、与羽の居場所も。
「闘技場ですね」
ソラはすぐに言った。
「何でそんな所に――?」
残菊ははっと息を呑んで口元を押えた。大げさな反応に見えるが、これが夢見の普通。
占いにしか興味のない多くの人は、戦うことを嫌う。特に敵のいないような時にまで戦うなんてことは理解不能なのだ。
「戦っていないと体がなまりますからね」
戦うのが仕事のソラは与羽をかばい、「行ってみましょう」と白銀に声をかけて三人で闘技場に向かった。




