一 [10/15]
与羽に物申してやろうと勇んで風呂から上がったソラだったが、与羽はいなかった。部屋のろうそくは半分ほど消されている。
「逃げられたな」
白銀が面白がる口調で言った。
「腹の虫がおさまりません」
ソラは言い、壁にかけてあったボウガンと矢を数本持ち、家を出た。
「おいおいおい、まさかそれを使う気じゃないだろうな?」と白銀も続く。
「与羽の態度によりますね」
「あれだけで? お湯はかかってないんだろ?」
「すみません。わたしは夢見にしては気が短いもので」
ソラはすぐ隣の広場へと踏み込む。
中央には巨大な木が生え、そのまわりを緑や青の光が無数に飛び交っていた。それは良く見ると羽を持つ小さな人の姿をしている。
万年の夢はこの世界でも有数の天力の濃い地帯。辺りの天力が集合して形と意志を持った妖精たちがこの木の周辺に住み着いている。
その木の比較的低い枝に与羽の影を見つけた。太くて丈夫な枝に寝そべり星を見ている。
「与羽」
ソラは少しとがった口調で声をかけた。
「あはっ、武装して、怖いなぁ」
与羽はちらりとソラを見る。
「火傷をしたらどうしてくれるつもりだったんですか?」
「あんたがあんだけで火傷するかよ。あれしきの事故に対応できんようじゃぁ、外守を治める資格なんかなぁって。なぁ? 夢見最強。『覚えとけ』って言うたじゃん。
それにさ、白銀に頼みはしたけど、実行するかどうかは白銀の判断じゃ。私ばっかが悪いわけじゃなかろう? なっ? 白銀」
与羽は反省する様子もなくニッと笑った。
「確かにその通りだな、ソラ」
白銀も与羽につく。
赤毛の猫の姿で与羽の膝に乗っている雷乱は、もちろん与羽側だ。
さすがに夢見最強でも一対三は分が悪いと思ったらしい。
「この借りは必ず返しますからね」
ソラはそう捨てゼリフを吐いて与羽に背を向ける。
「明日の朝は遅めでええけぇな」
与羽はそれを無視した上に、わざと無邪気にそう呼びかけてソラを挑発した。
そしてソラが去ったのを確認してから、また空を見上げる。木々の隙間から星を見て眉をしかめた。
「龍使い座が見えん。不吉じゃな」
そう呟いた。




