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一 [9/15]

「……まぁ、まずくはないな」


「あなたは正直に、『おいしい』と言えないんですか?」


「ん? この紅茶は甘くておいしいよ」


「それはあなたが自分で入れたものでしょう。わたしの料理は――」


「ソラ、無駄だ」


 白銀(しらかね)がティーカップの蜜をなめながら言った。


「彼女が人を褒めているところなんて見たことがない」


「オレも、ほとんどねぇな」


「雷乱までひどいこと言うなぁ」


 与羽は面白がるように言った。


「まぁ、良い事にしましょう」


 ソラは与羽にほほえむ。


「誰かが一緒に食事をしてくれるだけで、とてもありがたいことなのですよ」


「夢見らしいこと言うなぁ」


 与羽はパンをシチューに浸しながら、さらに笑った。


 食後は、世界地図を見ながら現状について話し、与羽が子どものように「眠い」ともらしたところで終わった。


「では、もう休んでください」


 ソラは与羽にほほえんで風呂へ向かう。背を向けた瞬間与羽がニヤリと笑ったのには、残念ながら気付けなかった。


 風呂の湯は一度捨ててまた入れなおしたのか、綺麗で髪の毛一本浮いていない。与羽の髪はたった一本でもとても美しいので、何とかして手に入れたいとは思うのだが、手に入らない。

 正直に頼めばくれるだろうか? 与羽は無愛想に振舞っていても、本当はとてもやさしい子だから。

 耳を澄ませば、皿を洗ってくれているらしき音もする。目を封じている布を取ってしまうと、嗅覚も聴覚も天力感覚も鈍ってしまうが、きっとあれは与羽だろう。

 自分の纏っている天力を与羽のいる所まで広げて探る事もできるが、それは失礼というものだ。


 ソラはふと水垢一つついていない鏡に目をとめた。銀髪、赤目の青年が見返している。

 彼は極端に色素が少ない体質で、目元を布で覆っていたために顔の上下で色が違うという事もない。

 整ってはいるのだが、わずかに幼さの残る自分の顔が嫌いで、すぐに鏡から目をそらし、桶を手に取った。


 湯をすくい――。


白銀(しらかね)、お湯が熱すぎませんか?」


 外で湯を温めるために外にいるであろう相棒にそう声をかけた。


「クソ、気づいたか」


 壁を隔てて心底悔しそうな声が聞こえてくる。


「当り前です」


 ソラは天力で十分保護した手を湯につけた。

 適温には程遠い。何も知らずに触れれば火傷しかねない温度だ。


「どういうつもりですか?」


 厳しい口調でソラがそう問いただす。


「与羽に頼まれたんだよな。どんなリアクションするか見てくれって。あいかわらず隙がなくて面白くない奴だ」


「……ついさっきまで与羽をいい子だと思っていた自分が馬鹿みたいです」


 ソラはため息交じりに言い、指のひと鳴らしで湯の温度を適温まで下げてから湯をかぶった。

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