一 [8/15]
万年の夢は丘にあるため井戸が掘れず、かろうじて上下水道は通っているものの、ガスや電気の類は全くない。風呂や料理の火も薪か天力による熱のどちらかだし、明かりもろうそくや天力の光が主流だ。
ソラの家では、薪とろうそくを使っている。余計な事で天力を消費しないためだ。
ソラは雷乱にろうそくの火をつけるように頼み、話題を探した。
彼と話すことはほとんどない。与羽のいないところで彼女について雷乱に質問するのは失礼だろうし、彼個人に話したいこともない。
そこでソラは、夢見流の話題を出すことにした。
「雷乱、創世期における羽音神の役割は何だったと思いますか?」
「どうこう言って、お前も夢見の民なんだな」と雷乱は苦笑した。
「一般的に言えば、できたばかりの世界に不備や歪みがないか世界中を飛び回って探すことだ。だが、オレはそれだけじゃないと思う」
雷乱はその調子で自論を展開していった。
そこで気付いたのだが、雷乱は賢い。過去の出来事は夢見の人並みに把握しているし、現在の世界情勢や勢力分布を正確に捉えている。
言葉は与羽同様綺麗とは言いがたかったが、内容はすばらしく、議論に夢中になるあまり料理が中断してしまう事も何度かあった。
結局布を身につけずに脇にかかえて風呂から戻って来た与羽が、「何二人だけで楽しそうな事しょん?」と言ったのも無理はない。
「あ、与羽、髪が伸びたんですね。気付きませんでした」
ソラはおろされた青くきらめく黒髪に触れた。与羽の髪はもっと光が強いところでは黄緑にも光るが、ここのろうそくの火では無理だ。
「さりげなく触んな」
与羽はあっという間にソラの指の間から自分の髪を抜き取った。
「ごはんは?」
「……もうすぐです」
すでに鍋の中には乳白色のシチューができている。議論に夢中になるあまり、ルーを焦がしかけた事は内緒だ。
白銀ももどってきて、食器棚から深皿やティーカップ、大皿やスプーンなどを取り出す。
ソラが一度火を通して暖めたパンを大皿に盛り、彩り豊かなサラダを二つの皿に分ける。
それを白銀がテーブルに運んできた。
「無駄のないチームワークじゃな」
与羽はティーカップに紅茶をいれながら、面白そうに言った。
「だてに長年一緒に過ごしているわけではありません」
やっと湯気の立ち昇る乳白色のクリームシチューが運ばれて来た。
与羽も二つのカップに紅茶、もう二つのカップにとろりとした琥珀色の蜜を注ぎ終った。
与羽とソラが向い合い、その横にそれぞれ精霊が座っている。
食事の前に、与羽は手を合わせ、ソラはブツブツと祈りの言葉をささげた。
与羽が待ちくたびれはじめたとき、やっと「では、食べましょうか」とソラがパンに手を伸ばした。与羽も「いただききます」とシチューをスプーンですくう。




