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序 [1/2]

 天地創造から七千年。大陸の西。

 夕刻の赤い光に照らされて、緩やかにうねる草原と森の中に神々しく、孤高にひとつ、長年の風食から取り残された丘があった。

 椀を伏せたような丘は、どの方向から見ても同じ形だ。そして、近くで見ると、「丘」と呼ぶのがためらわれるほど巨大で高い。


 語り部、ソラは木々の隙間から「万年の夢」と呼ばれるその丘を見つめた。

 いや、見つめたという表現は正しくない、彼の両目は淡い空色の布で隠され、その上から長い銀白の前髪が覆っているため、光さえも通さないのだ。

 つまり、彼はただ丘の方を向いていただけとなる。


 しばらくの間万年の夢に顔を向けていたソラの手に、薄黄色い鼻先が触れた。四足で、薄黄色に白や薄橙の毛が混じり、額には淡い月色の角がまっすぐ一本突き出た獣の鼻だ。

 たっぷりとしたたてがみはソラの髪よりも強く光を跳ね返す銀で、目は紅。角を除けば、大きな鹿のように見える。ソラはこの姿を麒麟(きりん)のオス、()のようだと思っている。


「ソラ」


 麒麟の口から人の声が漏れる。


「分かっていますよ」


 ソラは体に巻きつけた黄色の布の下から手によく馴染んだボウガンを取り出した。

 それと同時に、目が見えないのをものともせず、麒麟の背に飛び乗る。


「侵入者か?」


「――のようですね」


 麒麟とソラはそれだけ言葉を交わした。それ以上は話さない。麒麟が足音をしのばせて走っているのに、話し声がしたら意味がない。


 ソラは慣れたしぐさで麒麟の体を膝で挟んでバランスを取り、ボウガンに矢をつがえて前方に向けて構えた。

 間髪を入れず引き金を引くと、小さな風切り音がして矢が木立へと吸い込まれていった。


 すぐに前方から驚いたような男の叫びが聞こえ、ソラはさらに矢を放って追い撃ちをかける。

 それも当たったことを耳で確認して、ソラは麒麟の背から滑り降りた。新しく矢をつがえたボウガンを構えたまま、落ち葉を踏み、わざと足音を立ててゆっくり近づく。


「っ……、くそ。誰だ!」


 叫びに近い声がした。木々の間に、右のふくらはぎと左腕を射抜かれた男がうずくまっている。

 ソラはその様子を感じ取り、まっすぐ男の眉間にボウガンを向けた。


夢見(ゆめみ)族、外守(そともり)。ソラ」


 簡潔にそう名乗る。


「ここは夢見の領土、烏羽玉(うばたま)。あなたのような悪しき心を持つ人が立ち入って良い所ではありません。今すぐ立ち去りなさい」


 ソラの声は穏やかだったが、有無を言わせない響きがあった。

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