第1章第4話(16話) 明の選択④
「いやぁ、それにしても明さんて体力がすごいんですね!!
あれだけの量を斬るだなんて・・・。もしかしてなにか武術とかしてましたか??」
アイナさんはいつの間にか手に持っていた剣を引きずりながら、
こちらへ一歩ずつ近づいてくる。
おかしい。とは思った。
どうしてそんな「今から私攻撃します」というような表情で近づいてくるのか。
それに加えて、今の言葉だ。
まるで今までの木を斬るという作業が肩慣らしであったかのような口ぶり。
俺は疲労困憊の状況になっていた。
もうこれ以上、動いていたら倒れてしまうかもしれない。そう思うほどに限界だった。
とまあ、考えている間にもアイナさんはどんどんと俺に近づいてきていた。
気が付くと、少し踏み込みを入れれば、剣が届く距離に彼女はいた。
彼女はその位置に来ると、歩を進めることを止め、こちらを見据えた。
そして・・・。
「それじゃあ、実践を始めます!!」
その言葉と共に、アイナは握っていた剣をこちらに向かって振ってきた。
「起きてくださ~い!!明さん!!大丈夫ですか~!!」
俺の脳裏に突如、声が響いてくる。
(いったい、誰なんだよ。俺疲れて眠いのに。)
俺はその誰のものなのかはっきりしない声を無視することに決めた。
それほどに俺の心と体は睡眠を欲している。
人間、疲れが限界に達すると眠さも最高潮になるものであり、
これは人間が生存していく上で最も重要なことなのだろう。
(それにしても、どうして俺はこんなにも疲れ果てているんだろう。)
俺はこの疲れの原因を眠い意識の中、探し回った。
(確か、鈴に連れてこられた挙句、大きな建物の中に入れられたよな。
それでアイナさんが色々なことを教えてくれて、
剣の練習のために木を斬って・・・。あ!!)
俺はまだ眠い意識の中で全てを思い出した。
そうだ。俺アイナさんと向かい合ったその直後に放たれた攻撃で倒されたんだ・・・。
(ということは・・・。この声の主は)
俺は全てを理解し、まだ眠い意識を半ば無理やり覚醒させると目をパッチと開く。
すると目の前にあったのは心底心配した表情を浮かべるアイナさんだった。
これがもしも俺の家のベッドの上であったのならば、理想の光景だったに違いない。
一見可愛い少女が俺の寝顔を心配そうに見つめているのだから。
だけど現実というものはそうそう理想通りに進まないのが世の常である。
目の前にいる少女はロボットであり、その奥に見える景色は青空なのだ。
一瞬でむなしくなった。
「あ、お目覚めになりましたね!!いやぁ、びっくりしましたよ。
剣が当たった瞬間に倒れてしまわれるんですから。
疲れているならそう言ってくれればよかったですのに・・・。」
俺が目を覚ましたことに気付いたアイナさんは
安心したようで、そんなことを言ってくる。
(いや、普通に考えてあのすぐ後に実践するなんて思いつかないだろ・・・)
俺は心の中でアイナさんに突っ込んだ。
「それで明さん、お疲れのようですので。少し休憩しましょうか」
アイナさんは俺のことをじっと見ていたかと思うと、
疲れがまだ回復していないことにやっと気づいてくれたのか、休憩の提案をしてくれた。
俺はその提案に乗ることにした。
そしてただただ休憩するだけというのではつまらなかったので、
俺はこの機会に気になっていたことを聞いてみることにした。
「あのさ、アイナさん。ここはどういう場所なんだ。
この建物に入ったときに見た空間の大きさとこの空間の大きさは全然違うと思うんだ。
それに時間も結構経っているんじゃないのか・・・」
「ここは別の世界ですよ。あの建物の中には転移装置があるんです。
それと私たちの世界とこの世界の時間の流れはかなり違うので、
まだそんなにもあっちの時間は経ってないと思いますよ」
アイナさんはその質問が来ることはわかりきっていた事なのか、
自然な口調で答えてくれた。
(別の世界・・・。転移装置・・・。時間の流れ・・・。って、え?)
聞き慣れない言葉の数々に俺の頭はパンク寸前だった




