序章 最終話(12話) 審査の塔
二人が鈴の後ろについていくと、なにやら大きな建造物が見えてきた。
その建造物は横には大きくはなかったものの、縦に異様なほど高く、
この大きな地下施設の天井近くまで建物の先は伸びていて、塔のようだった。
「なんだ?あれ」
明は思わずそんな声を上げてしまうほどで、真はというとただただ固まっていた。
そんな二人の様子を気にするわけもなく、
鈴はどんどんとその建造物へと近づいていき、
その前で立っている男なのか女なのか全く見分けがつかない人となにかを話し始めた。
かと思うと、すぐに話を切り上げたのかこちらへと歩み寄ってきた。
「うん!適正審査の許可をもらってきたわ。さっさと見極めてもらいましょ」
鈴は二人の手をぎゅっと掴むと、
そんなことを言いながら二人を建物の中へと入れた。
いや、むしろ投げ込まれたと言っても過言ではないほどの勢いで、
押し出されていたのだが・・・。
それだけでも二人にとっては不可解なことではあったのだが、
なんと鈴は二人を建物の中に投げ込むとすぐに、入り口の扉を外から占めてきたのだ。
「それじゃ、適性が分かるまでは出られないから頑張ってね。
私はあなたたちが出てくるまでのんびりしておくわ」
という不安感しか煽らない言葉だけを残して。
「うわ~、やばいって、これ!!こっちからは開けられない仕組みになってるし!!」
「う、嘘だろ!?鈴さんは何を考えているんだ?
というか、もしもさっきの言葉が本当だとしたら、俺たちこのまま・・・」
鈴に建物に閉じ込められてから数分が経ち、明と真はうなだれていた。
というのも、建物の中に入ったのまではまだ良かったのだが、
そこで理不尽にも扉を閉められてしまい、
ここで軽く不安感を感じていた二人だったのだが、
扉は内側からは開かないことに気付き、更に不安感を募らせ、
とどめの一撃に鈴から言われた「適性が分かるまでは出られない」
という言葉の意味とそれに基づく災難を理解したことから、不安感が一転、
絶望感を味わう羽目になってしまっていたのだ。
この建物の中には、中央に大きなディスプレイがある以外には本当に何も存在せず、
食料品も飲料といった生活用品もなければ、
トイレという人間としての生活を維持するために必要なものもない、
そんな無慈悲な空間が広がっていたのだ。
つまり、適性が分からない限り二人はこの建物を出ることはできず、
何かを食べることも飲むこともできず、
あまつさえトイレをすることさえも禁じられることとなったのだ。
下手をすれば、
この建物の中で一生を終えることになってしまうかもしれないという風に、
二人の脳裏には自分の最期が浮かび上がってきて、
このままでは本当にやばいと思い、最後まで口にすることはなかった。
そしてこのまま打ちひしがれていても何も解決しないと判断した二人は、
この無慈悲な空間にただ一つだけ置かれていたディスプレイへと近寄っていった。
ディスプレイに近づいてみて、初めて気が付いたことがあった。
そのディスプレイの電源はついていて、アイコンが二つ点滅し続けていたのだ。
二人は顔を見合わせながら、考えることにした。
(これはどういうことなんだ??適正審査とかいうくらいだ。
もしかしたらこのアイコンを押した瞬間に何かが起きるのではないか・・・)
(これは押してもいいのか。
いやむしろ押さなければこのままここに閉じ込められたままかも・・・)
数秒なのか数分なのか定かではない時間が過ぎ、
やっと二人はどうするのかの結論を出した。
そして二人は自分自身の結論に従い、行動を起こした。
そう、二人揃って点滅しているアイコンに指をあてて、押したのだ。
次の瞬間、ディスプレイがまばゆい光を放ったかと思うと、
建物の壁も光りだしていき、
一瞬のうちに二人の瞳には真っ白い光しか映さなくなり、
お互いの姿を視認することすらできなくなってしまった。
「お~い!明!!どこにいるんだ!?何にも見えねぇ」
「あー、こっちも同じで何も見えない。どうしようか。」
二人にはお互いのそんな声しか聞こえなくなってしまったが、
まだ音が聞こえるだけでも良かったと思うのは、それから数秒も経たなかった。
なぜなら、その数秒の後、明には真の声が、真には明の声が聞こえなくなったのだ。
そして、二人の瞳がそれぞれ建物を包んでいた光に慣れてきたころ、
彼らの眼前にさっきまでは何もなかったはずのその場所の、
左側には剣が、右側には銃が置かれていたのだ。
その剣と銃の間は、不自然な空間が開いていて、
どちらかを先に取らなければ両方の武器を手にすることはできないと暗に示されていた。
二人はお互いにどちらを先に手にするのかを決め、そちらへ向かって歩き出した。
この選択が、
この先の二人の絆を離す最初の選択だったということを彼らはまだ知らなかった。
次の話より、適正審査編




