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#098 取入れ時期は依頼が増える

 天高く馬肥ゆる秋…そろそろ、匈奴が攻めてくる頃なのか。とアクトラス山脈の険しい峰峰が紺碧の空にくっきりと浮かび上がる光景を見て、そんな事を考える。


 ここは、異世界。騎馬民族もいないし、秋の取り入れを待って略奪を図る者達もいないのだ。

 いるのは、獣とサル騒動で取りこぼされた少数の魔物…。

 畑の取り入れが活況となるに伴い、村人の被害が出始める。


 それは、ギルドの依頼書の数の増加で容易に推察できるのだが。

 魔物騒動が終わると、あれ程いたハンター達が櫛の歯が抜けるように去っていった。

 現在のギルドに登録されているハンターで外から来ているハンターは赤7つの3人組みだけである。


 溜まる一方の依頼書をみて、俺達は変則的なチームを作った。

 キャサリンさんとルクセムくんそれにミケランさんが採取依頼を担当する。

 

 嬢ちゃんずはジュリーさんと一緒に、畑を荒らす魔物の討伐だ。

 ダイコンモドキのカルネルと赤カブモドキのシャザクが畑で大暴れしているらしい。

 この季節には渡りバタムというバッタモドキも出現するので、ある意味三つ巴の魔物達の戦いが行なわれているとの事。

 長い戦いになりそうだけど、嬢ちゃんずの士気は高い。


 俺と姉貴、そしてセリウスさんは、レベルの高い獣や魔物を専門に狩っていく。そしてキャサリンさんや、嬢ちゃんずが手に負えない魔物もあわせて狩ることにした。


 そして、村在住のアンディ達ともう一組の赤レベルのハンターが、彼らに見合った依頼をこなしていく。


 そして始まって見ると、日毎に依頼掲示板の依頼書は減ってきた。

 「掲示板は三分の一位空いている位が、私は適正だと思ってるんです。ハンターの方々が選択する範囲も広がりますし、ギルドも溜まった依頼をどうするか悩まずに済みます。」

 そう言うシャロンさんの言葉を聞いて、なるほどなぁ。って感心した。

 ハンターの技量は銀レベルを除いて、20段階あるわけだから、選択範囲が狭ければ無理が生じる事になる。場合によっては命に関わることもある訳だ。

 やはり、どんなものにも程々ということが大事なんだろうな。

 

 朝食後にギルドのホールに集まって、何時ものように依頼書を前に作戦会議だ。

 テーブルに椅子を寄せ合って出陣前のお茶を飲む。


 「私の方は順調です。ミケランさんが周囲を見張ってくれますし、ルクセムくんの採取は、とても丁寧なんですよ。痛みの無い薬草を届けていますから、雑貨屋さんも喜んでいます。」

 キャサリンさんがそう言うと、ルクセムくんは赤くなって下を向いている。ちょっとアルトさんが誇らしげなのは、弟子と師匠の関係なのかもしれない。


 「我等の方は手こずっておる。どちらも個体では低位の魔物なのじゃが、集団で出るとなると話は別じゃ。特に、シャザクの上位となるシャゲルは素早くての…。それが同時に3体出ると、こちらも手出しが出来ん。」

  

 姉貴が急いで図鑑を広げてる。

 ふ~む…。カルネラの赤カブバージョンだな。

 特徴は、素早いの一言だ。急所となるものは特に無いのも一緒だな。

 となれば、斬って斬って斬り捲る以外に手は無いのだが、素早いから難しいという訳だ。

 

 「毒は、持っていないのね。分かりました。これは村人にちょっと手伝ってもらいましょう。」

 「どうするのじゃ?」

 「落とし穴に追い込むの。相手が動かなければ何とかなるでしょ。」

 「なるほど…。手配は我等がしよう。」

 姉貴の助言で嬢ちゃんずの面々は少し明るい顔になってきた。さっきまではどよ~んて感じだったものな。


 「俺達だが、シャロンから直接依頼を受けている。…西の沼地でダルバ狩りだ。」

 図鑑を見た姉貴の顔が青くなる。

 覗き込むと、蛇だな。ダルバの横に描かれた人物像と比較すると…長さ15m、胴の太さは50cmを越える。特徴は、獰猛で素早く、火球を吐く。とある。

 

 サル騒動の置き土産だとは思うけど、まだこんなのが残っていたんだ。


 「お前達で大丈夫か?ダルバはスラバの上位魔物じゃ。鱗の強度も増しておる。容易に斬ることは出来ぬぞ。」

 アルトさんが心配そうに俺達を見た。


 「アキトはスラバを3匹を相手にしてますし、今回はセリウスさんもいます。私達で何とかします。」

 「そうか、では武運を祈る事にするが、ダルバを見た目で判断しないことじゃ。通常の蛇は頭を潰せばよいのじゃが、ダルバはそれでも動きまわるのじゃ。」


 スラバと一緒で脳髄が複数あるということなのだろうか?

 かなり曖昧な忠告だけど、アルトさんの忠告はありがたかった。


 そんな打合せを終えて俺達はギルドを出る。

 俺と姉貴は一旦家に戻り装備を整えて西門でセリウスさんと待ち合わせることにした。どう考えても1泊2日のダルバ狩りである。秋も深まってきたので山の野宿は結構大変だ。


 迷彩シャツの下にインナーを一枚着る。これだけでも十分に暖かい。寝る時にはポンチョを被れるように丸めて装備ベルトのバッグの上に専用のベルトで取付ける。

 そして、グルカを外して、ショットガンのケースを背負う。弾丸ポーチは胸のサスペンダーだ。採取用のスコップナイフは外しておく。

 Kar98を取り出し、全ての銃に弾丸が入っていることを確認して、安全装置をかける。

 食料は3人分を3日分用意してバッグに入れる。


 姉貴は服装と装備も何時もの通りだ。

 2人して井戸に出かけると水筒に水を補給した。大型水筒にも水を入れてバッグに詰め込む。

 

 2人で顔を見合わせ、頷くと通りに向かって歩き出した。

 西の門ではセリウスさんが待っていた。

 背中に2本の片手剣とベルトのバッグ、そして手に持っているのは2本の槍だ。

 柄の長さは身長より少し短いが、穂先の長さは50cm位ある。しかも銛みたいに返しが2箇所に付いていた。その槍2本を紐で結わえている。


 「なんか、凄い槍ですね。」

 「これか?…魔物用の投槍だ。鍛冶屋に作らせていたのだが、今日できたみたいだ。」

 投槍とは言うけど、短槍として使う事も出来そうだ。

 

 俺達は門番に門を開けてもらい早速、森への小道を歩いていった。

 だらだらと続く緩い登り坂を進むと休憩所に着く。


 此処で昼食を取ることになった。早速枯れ枝を集めて焚火を作る。

 「セリウスさんはダルバを狩った事があるんですか?」

 「まだ、黒になって間もない頃に一度だけある。【アクセル】で身体機能を強化しても奴の動きと同等位だ。そして、50D位に近づくと火球を放ってくる。【メル】よりは威力はないが連発で来る。20D以内は直接奴の口が襲ってくる。灰色ガトルのような牙だが、その内2本に毒腺があるから注意しろ。」

 

 「スラバは頭を落としても動きは鈍りませんでした。ダルバも同じなんでしょうか?」

 「スラバは、首の付根の背中側に、隠れた頭があるが、ダルバも同じだ。しかし、外部からその頭が何処にあるかは判らない。滅多刺しか、滅多斬りで倒すしかないようだ。」


 結構、面倒な相手だな。

 頭を落としてから、次の頭が再生するまでに短時間に滅多斬りで、隠れた脳髄を破壊するしかなさそうだ。

 

 「この投槍は通常の穂先よりも長い。しかも返しがあるので一旦刺されば抜けることはないだろう。ただ、俺の力でどの程度深く刺さるかはまだ分からぬ。」

 「セリウスさんは投擲具を使わないんですか?」


 「投擲具?」

 「そうです。投槍をより遠方に飛ばすための道具なんですが…。知りませんか?」

 「投槍は皆自分の腕で投げるぞ。…どんなものだ?」

 

俺は枯れ枝からすこし曲がった枝を取り上げた。

 「このような形です。此処をもって、投槍の後を此処に設けたカギに引っ掛けて、こんな感じで投げるんですが…。」


 「ふむ。腕を伸ばす為の道具という訳だな。アキト。作れるか?」

 「今夜にでも挑戦してみましょう。」


 昼食を終えて、森の手前を西に歩いて行く。

 前に来た時と違って、下草の勢いがそれ程でもない。結構見通しがよくなっている。

 それでも、森の繁みには何か潜んでいる可能性があるので、森から100m程の距離を取って歩いて行く。

 

 尾根を1つ越えると、西の沼地が見えてきた。

 日もだいぶ傾いてきたので、急いで野宿する場所を探し始める。


 そして、俺達が野宿場所に選んだのは沼から2km程はなれた2本の太い木の根元だ。

 広葉樹の一種の立木は根が大きく張り出し、それが2本絡み合っている。それを背にして、焚火を始める。

 セリウスさんと十分な薪を集めて、姉貴が夕食を準備している間に、沼地の偵察に出かけた。


 ダラシットは沼の周りに自分の移動路を作っていたし、トリフィルは結構目立つ姿をしていたから難なく見つけることが出来たが、はたしてダルバは何処にいる?


 ツアイスの双眼鏡は1km程はなれた沼地をくっきりとアイピースに浮かび上がらせているが、それらしい姿は沼の周りには見つけられなかった。

 ダメか…。そう思って、双眼鏡を放そうとした時だ。


 沼に水を飲みに来た数匹のリスティンが騒ぎ出した。

 辺りをしきりに見回している。

 何か気配を感じたのだろうか…。

 

 バシャン!

 沼から何かが飛出してリスティンを襲った。

 ギィョ~って、鳴き声をあげながらリスティンが逃げ出す。

 残ったのは…、巨大な大蛇とその顎に咥えられたリスティンだった。

 そして、静寂が訪れ、ダルバは沼の中に沈んでいった。


 大きい。しかも、相手は沼の中だ。

 これは、一筋縄ではいかないぞ…。


 急いで、姉貴達の待つ立木に急ぐ。

 走ってきたのが俺だと分かると、セリウスさんは片手剣を背中のケースに仕舞った。


 「どうだ?…いたか。」

 「あれは、ちょっとでかい。…リスティンをガブリだ。しかも沼の中から出てきた。」

 

 そんな会話にお構いなしに姉貴は簡単なスープを俺達に配る。そして、ビスケットのように硬い黒パンを2枚づつ渡してくれた。

 硬いパンだけど、スープに浸けながら食べると結構美味しい。


 「ダルバって蛇だよね…。沼の中にいるというのは少し変よ。」

 姉貴が呟いた。

 確かに、蛇は爬虫類のはず。肺で呼吸する生き物だ。いくら魔物でも鰓は持っていないだろう。

 だとすると、襲撃時だけ水中から行なったことになるのだが、…それなら普段は何処にいるんだ?


 「ミズキの言う通りだ。スラバもダルバも蛇の範疇に入る。ウナギではないからな。沼のどこかで見張っていて襲撃時に水中から襲うのだろう。」

 「やはり、スラバのように焼き打ちして見つけるしかないのかな。」

 

 「スラバの時には、芦原を焼き払ったと聞いている。しかし、ここは森の中だ。山火事になる可能性もあるぞ。」

 

 フーム…。って2人とも考え込んでしまった。

 こんな時は、何か別な事をしながら考えると結構いいアイデアが浮ぶこともある。


 そんな訳で、セリウスさん用の投擲具を硬そうな木の根っ子を使って作り始めた。

 握りと槍の後部を引っ掛ける部分、それに腕の部分は槍が上手く載るように雨樋のような溝を作る。

 山の中で道具もあまりないから、サバイバルナイフで荒く削り出して作るつもりだ。


 お茶を飲むと姉貴は早くも寝てしまった。

 俺とセリウスさんはタバコを煙らせながら火の番をしている。

 「セリウスさん。此処を握ってみてください。そして、この動きをしてみてくれませんか?」

 荒く仕上げた投擲具をセリウスさんに渡す。

 セリウスさんは投擲具を受取ると、形やバランスを調べていたが、握りの部分を軽く握ると、俺の動きを真似てみた。


 「この後の突起部分に投槍の後部を引っ掛けて投げるのか…。」

ブン、ブン…音がする位の速さで振っている。


 「もう少し、細いと動かしやすいな。そして、使う前にちゃんと狙い通りに跳ぶか試す必要がありそうだ。」

 俺は、セリウスさんから投擲具を受取ると、最終仕上げに入った。


 「ところで、セリウスさん。俺のいた国では、身近なもので蛇の嫌うものがあるんです。」

 「なんだ、それは?」

 「セリウスさんの吸っていたパイプのヤニですよ。…何故か、昔話でそんな話があるんです。」

 「昔話だと笑うわけにもいかん。それが事実である可能性もあるのだ。」


 セリウスさんは投槍の穂先の血溝にパイプのヤニを塗りつけ始めた。

 やはり、セリウスさんでも不安だったようだ。ある意味、藁にもすがるつもりではじめたんだろうけど、少しは根拠がある。

 タバコのヤニに含まれるニコチンは猛毒なのだ。

 傷口から血液中に素早く拡散し、血管を収縮させる。血流が悪くなれば、当然反応速度も鈍ることになり俺達の攻撃がそれだけ容易くなる。


 何度も何度もセリウスさんは穂先にパイプのヤニを塗る。

 あの槍をこの投擲具でダルバを串刺しにするセリウスさんの姿が見えるようだ。


 仕上がった投擲具をセリウスさんに渡す。

 使い方をもう一度説明して、実際に投槍を投擲具にセットして、投擲動作を教える。

 セリウスさんがゆっくりと何度も何度も動作を繰り返す。


 「どうやら、使い方は分かったが実際に投げてみないと分からぬな。明日朝にでも、どの程度の距離まで狙えるか試してみるつもりだ。」

 そう言って投擲具を腰に差した。


 明日は、ダルバ狩りだ。

 先にセリウスさんが横になる。

 俺はもう少し、火の番をして、東の空が白み始めるころに、姉貴に代わってもらうつもりだ。

 シェラカップにポットからお茶を注ぎ足し、銀のケースからタバコを取り出した。

 焚火の小枝で火を点けて、周囲に耳を澄ましながらゆっくりと煙を吐き出す。

 まだまだ夜は長い…。


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