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#092 サーシャちゃんのお兄さんとお嫁さん?

 ダーム狩りをしてから1週間も過ぎると、朝夕の気温がだいぶ下がってきた。

 アクトラス山脈も気持ち色づいてきたようにも見える。

 もう、夏が過ぎようとしているのだ。

 そして、俺達がこの村に来て1年を迎えようとしている。


 そして、1年前は3人だった村に住むハンターも、今は10人に増えている。

 今年は町のギルドに1件も依頼書を廻さずに済みそうだ。ってシャロンさんも喜んでいる。

 セリウスさんの開墾も色々あって進まなかったけど、30m四方位は何とかなった。来年は野菜ぐらいは作れるだろうって言ってる。

 そして、後1月もすれば段々畑の取り入れが始まる。


 ジュリーさんが王都から戻ってきた時のお土産は2つの箱に入っていた。1つはクロスボーのボルト、そしてもう1つには最新のスゴロクが入っていた。王国の実際の町や村が記載されてスゴロクで地理が学べるようになっている。特産物もあるけど、ネウマケトマム村の特産物は狩猟期としか描いていない。

 

 そして、ジュリーさんは、姉貴の前に7枚の金貨を置いた。

 「国王様からのサル討伐の報奨金です。1人金貨1枚を参加者に与えるように仰せつかりました。」

 「では、私とアキト、それにミーアちゃんの分を頂きます。セリウスさんの分はジュリーさんから届けて戴けませんか。それに、ジュリーさんや、アルトさんとサーシャさんの分はジュリーさんにお渡しします。」

そう言って姉貴は3枚の金貨を受取った。


 「実は…来週にもクオーク様が隣国の姫様をお連れになってこの村にいらっしゃるのです。」

 「クオークさんって、確かサーシャちゃんのお兄さんですよね。」

 「そうです。御歳18歳になります。どうやら、カナトール王国の横槍をトリスタン様が撥ね退けることに成功したのですが、サーミスト自冶国の御使節との会談の席上で…。」


 ジュリーさんの話では、その会談で話題になった事が今回訪れる原因になったそうだ。

 その原因とは、ラッピナを真昼に狩るハンターがいる。ということらしい。

 嬢ちゃんずが普段何気なくこなしている依頼なのだが、警戒心が強くしかも小さいラッピナを罠以外で捉える事は不可能という認識が一般的らしい。確かに、最初の狩では皆驚いていたもんな。

 

 その狩を行うハンターがこの村にいると聞いて、相手国の姫様が見てみたいと言い出したらしい。

 その上、この村にはクオークさんの伯母…(良かった気が付いていないみたいだ。)と、将来ひょっとして小姑になる可能性がある妹のサーシャちゃんがいるわけだ。

 ついでに挨拶を…ってことで一石二鳥の行幸になる。


 「ハナタレ小僧が嫁を連れて挨拶に来るのか…。」

 「兄様のお嫁さん?」

 「そうですよ。ですから、お淑やかにしていないといけません。」

 ジュリーさんはそう言うけど、この2人にはかなり難しい相談のような気がするぞ。


 「でも、この村には宿は一件だけですし…姫様を宿に御泊めするのも…。」

 「はい、そこで御相談なんですが、私が住まわせて頂いている部屋をクオーク様達が滞在している期間、お二方にお貸し願えればと思いまして。」

 

 確かにVIPだよな。宿よりはこの家の方が遥かにセキュリティが高いぞ。アクティブ防御的には、王宮より高いんじゃないかと思う。


 「分りました。でも、それだとジュリーさんの寝るところが無くなっちゃいますよ。」

 「私は宿に泊ります。随行警備の中に妹がおりますので…。」

 

 さらに話が進むと、随行員として近衛兵の一団まで来るらしい。彼らは訓練という事で隊長と補佐を除く全員(と言っても20人らしいけど)は宿を取らずに西の門の外に天幕を張って野営をするみたいだ。

 

 「滞在するといっても3日程度であろう。クオークは幼いころから病弱であったが…そうか、もう嫁を貰う年頃か…。」

 アルトさんは遠い目をしている。

 意外と世話好きだから小さい頃は何かと面倒を見ていたに違いない。

 

 「2人とも、どんな人だろうね。」

 姉貴も遠い目をしているが、これは絶対ロイヤル・ウエディングを夢想しているにちがいない。


 「俺も異存はありませんが、何か準備するものはありませんか?」

 姉貴も、そうだよね。準備しなくちゃ。なんて言ってる。


 「特に必要なものは…ベッド位でしょうか。アルト様の部屋に既存のベッドは運んでしまいましたから。」

 

 そんな訳で、ベッドを購入する事になったが、ベッドなんて急に手に入る物でもない。

 雑貨屋の娘さんに頼んで急いで町に発注する事になったが、通常だと10日程度掛かるらしいので、セリウスさんが町に出かけて購入手続きをしてくることになった。

              ・

              ・


 そして、明日は到着するという晩に、アルトさんが耳寄りな話をしてくれた。

 「クオークは、アキトに比べると見劣りはするが1つ、我らに無いものを持っておる。…それはこの国の歴史、成り立ちに詳しい。その知識は大神官に匹敵するほどじゃ。アキト達が我らとは異なる事は承知している。何時までこの王国にいてくれるのかは判らぬが、もし解らぬことがあればクオークに聞いてみるが良い。」

 

 「それって、病弱だからずっと本を読んで暮らしていたとか…。」

 「その通りじゃ。…クオークが今回の訪問を望んだとは思えん。かなり行動的な嫁に違いない。」

 

 アルトさん。もし、呪いを受けずにいたら、同じ言葉を何処かの国の重鎮に言われていた可能性が高いですよ。そして、サーシャちゃんも何れかの日には…。

 いや、別な見方をすれば、この世界の女性は行動的がイニシャル設定なのかも知れない。お淑やかな女性を、俺はまだ見ていないような気がする。


 ふと視線を感じて横を見ると、姉貴が俺をジッと見ていた。

 姉貴が躊躇する理由は分るつもりだ。ひょっとして、俺達の質問がこの国のいやこの世界の禁忌に触れる恐れを案じているに違いない。


 「アルトさん。俺達が訊ねたいのは、場合によっては禁忌に該当することかも知れません。それでもクオークさんは答えてくれるでしょうか?」

 「お前達の質問は、カラメル、サル、そして呪いに該当するものじゃろう?…大丈夫じゃ。この程度の話しが禁忌とは思えん。全てに答えられるかは不明じゃが、クオークが知らないものはこの王国で他に答えられるものはいない。」

 

 

 そして次の日、朝早くから姉貴だけがソワソワしている。

 ジュリーさんは東の門に出迎えに行っているし、嬢ちゃんずは暖炉の前で、新しいスゴロクに余念がない。

 俺の方は、彫刻の最中だ。

 繊細な彫刻を彫るのは精神修行に適している。集中力の持続を促すのにこれに勝るものはない。

 姉貴は座禅だって言ってるけど、ロフトでミーアちゃんと2人でやってるのを見る限りにおいて怪しい限りだ。

 今日は、何時に無く長く続いてるなって見に行くと、2人ともコロンって横になって寝ている時がある。


 そんな姉貴に座ってお茶を飲むように薦めた時だった。

 扉を軽く叩く音がした。


 サササーっと姉貴が扉に走り寄ると扉を開いた。俺も席を立って扉を見る。

 最初に入ってきたのはジュリーさんだ。扉の姉貴と反対側に立つ。

 

 「クオーク様と、サーミスト自冶国のアンドロワ王女様です。」


 そして、若い男女が入ってきた。

 「兄様!」って俺の脇を金色の塊が飛んでいって若い男に抱きついた。

 金色の塊はサーシャちゃんの髪の毛だった。

 ビシって甘えてるけど、その相手は…


 意外とまともな男のように見える。線がかなり細いけど、病弱だってアルトさんが言っていたのも頷ける。

 サーシャちゃんよりはトリスタンさんによく似ている。…まぁイケメンだな。俺よりは落ちるけど…。


 そして、その隣には何処の戦乙女だ!

 革のシャツとパンツにブーツ。そしてその上半身には鎖帷子だが、鎖帷子の目が細かくて布のように見える。腰に片手剣を吊るし、背中には弓を背負っている。

 槍を持っていないのが不思議な位の格好だぞ。

 アルトさんの元の姿よりは落ちるかもしれないけど、十分ユニバースは狙える体型だし、何より美人だ。

 北欧の人が彼女をみたら拝み倒してサーガを題材にした絵や彫刻を造るに違いない。


 姉貴とミーアちゃんは吃驚してる。

 そうだよな。これだけ対照的なカップルも初めてみたぞ。

 これが、反対なら様になるんだが…。


 クオークさんは俺の所まで歩いてくると俺に右手を差し出す。

 「初めてお目にかかります。トリスタンの息子のクオークです。歳も近いようですし、敬称は無しで行きましょう。」

 

 俺は彼の手を握る。

 「アキトです。扉の所にいる姉のミズキ、暖炉の所にいる妹ミーアとともにチーム『ヨイマチ』のハンターです。」

 姉貴は片手を口に当てて固まってるけど、ミーアちゃんはちゃんと頭を下げてご挨拶が出来たぞ。

 

 「あ、あのぅ…とりあえずお座りください。」

 どうやら姉貴が復活したらしい。

 2人がテーブルに着くと、1人の異丈夫が入ってきた。


 「近衛のダリオンだ。ジュリー様がここは安全。と宣言しておるが、役目がら同席する。」

 セリウスさんも立派な体型だが、ダリオンさんには負けてる。

 それにこの人は猫族ではない。

 どう見ても、トラだ。リアルなトラ模様の顔は、まるで仮面を被っているように見える。

 姉貴と俺とミーアちゃんは思わずポケーって見てしまった。


 「くくく…。いや失礼。お二方はトラ族を見るのが初めてらしいですね。ご心配なさらずとも大丈夫です。父が心配の余り、優秀な近衛隊長をつけてくれました。」


 「ごめんなさい。セリウスさんみたいな猫族しか知らなかったので、ちょっと吃驚したんです。」

 姉貴が素直に謝っている。

 

 ジュリーさんが俺達の前にお茶を持ってきた。

 来客だからか、陶器のカップだ。

 つかつかとアルトさんがやってきて姉貴の隣に座る。


 「そなたが、サーミストの戦乙女、アンドロワか…。我はアルテミアじゃ。覚え置くがよい。」

 凄い挨拶だな。って感心していると、アンドロワさんが席を立ってアルトさんの所にきた。


 「剣姫様ですか…お噂はかねがね聞いております。是非狩りの手解きを…」

 アンドロワさんの目が輝いている。

 普段を見てるとそうは見えないけど、アルトさんって以外と有名人なのかもしれない。


 「それは構わんが、姫のレベルはどの程度なのじゃ?」

 「黒9つでございます。」

 「そうか、それは楽しみじゃ。」


 意気投合してる。そして、それをクオークさんがにこにこしながら見ている。

 意外とお似合いなのかも知れない。


 「ダリオン。此処は安全じゃ。我が保障する。通りの内側にでも部下を残してさっさと野営の準備をしたがよかろうぞ。ついでじゃが、西門に向かう通りの左端がセリウスの家じゃ。挨拶を忘れぬようにな。」


 「姫の命では仕方ありませぬな。この家に虹色真珠が3つはいりますまい。早速野営の準備を始めます。それと、ありがとうございます。」

 そう言って、俺達に頭を下げると部屋を出て行った。


 「ところで、クオークよ。我に嫁を見せに来ただけではあるまい。本当の目的は何じゃ。」

 クオークさんはしょうがないと言うような仕草をしたが、改めて俺達を見た。


 「アルト姉さんの隣のお二方に興味がありました。ジュリーさんに連れてきて欲しいと頼んだんですが、たぶん2人は来ないと言われました。晩餐の話題に、昼にラッピナを獲るハンターがいると聞き、アンが是非会ってみたいと言い出しまして、その場所を聞くとこの村だと言うではありませんか。それで、この機会を逃したら2人に合う機会は無いと思いここまで足をのばしました。」


 「その思いは満足するであろう。だが、彼らにも応えてやってくれぬか。…その間のアン姫の相手は我等がする。」

 

 「ところで、アン姫よ。その弓に自信はおありか?」

 「はい。今では走るガトルを射止める事が出来ます。」


 「そうか。それではその腕を見せて貰おう。無論、我等も参加するつもりじゃ。我等の普段の練習をこなして貰おうかの。ラッピナ狩りは昼過ぎにしようぞ。数匹は直ぐにも狩れるじゃろう。」


 そう言って、嬢ちゃんずはアンさんを連れて家を出て行った。

 その後にはジュリーさんが続く。隣国のお姫様だもんな。護衛のつもりだろう。


 そして、部屋には俺達とクオークさんが残る。

 「さて、何から聞いてよいのやら…そうだ。ミズキさんはチェスをするんですよね。ひとつお相手願えませんか?」

 「えぇ、いいですよ。」

 姉貴は早速チェス盤を取りに行った。


 「このチェスを作ったのはアキトさんだと聞いています。…確かに冬の暖炉の前で時間を潰すには良い遊びです。…でも、僕は少し気になりました。この遊びが余りにも精練されすぎています。そして、この駒です。ナイトと言うものは聞いたことがありません。私が、悩んだ末に出した結論は、この遊びは我々の知らない軍構成を元にしているのではないか。そして、その軍隊ではこの遊びが昔から行なわれていたのではないか。」


 唯の王子ではなさそうだ。どちらかといえば学者肌、そしてその頭脳は明晰だ。

 

 「その推測は合っています。そして、そこから導かれる事も推察しているのではないですか?」

 「なるほど…。ある意味カルメルの民と同じと言うわけですか。」


 カルメルが俺達と同じ…。俺はカルメル人は宇宙人だと思っている。

 俺達も、姉貴の願いで此処に来た訳だから、彼らから見れば同じ異邦人なわけだ。

 思わず姉貴と顔を見合わせる。


 「大丈夫ですよ。カルメル人と違い貴方達は私達と同じ容姿をしている。髪と目が黒い位は、猫族やトラ族と比べれば遥かに見慣れた姿だ。」

 

 「私達も疑問があります。それは、サルと言う存在です。ジュリーさんは見るのも嫌だという感じですが……いいですか。これは、此処だけの話で聞いてください。私達には、サルの残した本が読めるんです。その意味も解るんです。それが何故かは解りませんが…。」

 姉貴が小さな声で呟くように話した。


 「この王国が建国されて千年はたっているでしょう。今は4つの神殿がありますが、千年前には神殿は1つだったようです。千年前に何があったかは残された文献が余りにも少なすぎます。まるで、その時を忘れたいみたいにね。」

 「そして、更に数千年前…地上には人と獣のみがいたようです。地下深くの洞窟の壁画には猫族も、犬族も描かれておりません。」

 「壁一面に書かれた文字は、サルの持っていた杖に描かれていた文字と系統が同じです。」

 

 それが、クオークさんの姉貴の問いに対する応えだった。

 セリウスさん達は何処から来たのだろう。かろうじてカルメル人が我々とは系統が異なるということが共通認識とはなったが…。

 そして、サルは人と同じように古くからいたのだろうか。

 ひょっとして、此処は異世界ではなく、はるか未来の地球なのでは?

 いや、俺達の世界に2つの月は無かった。

 でも、はるか昔には、地球に月が無かったという話も聞いたことがある。


 「どうしました?」

 クオークさんが俺達に言った。

 「少し、私達には刺激が強いお話でした。…どうやら、私達は過去の世界から来てしまったようです。そう仮定すると、つじつまが合う所があります。」


 「未来ではなく、過去からですか…。」

 「はい。私達の住んでいた世界には、知能が発達した動物は人のみでした。その他は獣ですね。それと、古代遺跡の壁にある文字はたぶん私達は読むことが出来るでしょう。たとえば……これはサルの持っていた本の写しですが、私達はこの文章を読み、そして理解する事が出来ます。これと同じ文字であれば、私達は過去から来た事になります。」


 そう言って、バッグから取出した数枚の紙を見せる。

 それを食い入るようにクオークさんは見つめた。


 

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