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#086 2体の魔物

 ダイコンを輪切りに…いやカルネルを一刀両断しているミーアちゃん達を横目に見て俺達は更に段々畑を下りていく。そして、最後の畑を過ぎると荒地がずっと南に向かって延びている。

 うまい具合に荒地には所々に岩が取り残されたように点在している。1人が常に警戒していれば薬草採取に専念できるだろう。


 荒地を進んで最初の岩にたどり着いた。高さ1m程の岩だけど上に上れば見通しは利きそうだ。

 少し早いけど簡単な昼食を取る。

 周りの潅木から薪を取り、小さな焚火を作ってお茶を沸かす。

 黒パンサンドを食べて、お茶を飲んでひと休み。

 銀のケースからタバコを引き抜くと焚火の枝で火を点ける。

 家でタバコを吸うよりもこんな風に焚火を囲んで吸うほうが美味いと感じるのは何故だろうか…


 一服が終わると、最初の見張りには俺が立つ。岩の上に乗ると、低いけれども見通しは利く。

 早速、3人が岩の周りに散開して薬草を探し始めた。

 確か、ヨモギがサフロンでタンポポがデルトンだったよな。

 

 見てると、3人がどんどん籠に薬草を放り込んでいる。スロットも意外と手馴れている。採取系を続けていたせいなのだろうか。

 それに比べて俺達は採取系をあまりしていないような気がする。

 ガトル襲撃に始まる、あの騒動で一気にレベルが上がったから、本来覚えておかないといけない薬草の種類がイマイチ理解できていない。

 体質が体質だから必要性を感じないせいなのだろうか…。

 

 「アキト。交替だよ。」

 姉貴の呼び掛けで岩を飛び降りると早速俺も薬草採取に加わる。ヨモギ、ヨモギ。タンポポ、タンポポ…。

 

 しばらく岩の周囲で薬草を探して、見当たらなくなると次の岩に移動する。

 順番に岩の上に立ち周囲を警戒する。

 そして、ネビアの番の時だった。

 「何か接近してきます。」

 その声に姉貴が素早く岩に飛び乗った。

 ネビアの示す方向を双眼鏡で素早く確認する。


 「アキト、ガトルが3匹接近中。4時の方向からよ!」

 俺はグルカを抜くと素早く南東に周りこむ。スロットが長剣を抜刀して俺の後に来た。

 

 「ガトルに飛びつかれる前に叩き斬るんだ。倒れると喉に噛み付かれるぞ。」

 姉貴がクロスボーを下ろして狙いを付ける。

 ネビアも【メル】の詠唱を始めた。


 バシュ!っとボルトが飛んでいく。

 キュゥン…っという泣き声がした所を見ると命中したようだ。

 ザザザーっと草を掻き分けて俺に向かってきたガトルを体を捻りながらかわすとともにグルカを振るう。ドタ!っとガトルが体を半分程斬られて地に落ちた。


 ガァゥ!っと俺の後に行ったガトルはスロットの正眼斬りで体を両断される。

 意外とスロットは剣の腕が高そうだ。

 

 「また来ます。大きい…」

 その声に後を見た俺の目に映ったものは、巨大なガトルだった。

 灰色ガトルよりも遥かにデカイ…


 バシュ!っと巨大ガトルにボルトが突き刺さる。喉につきたったボルトにガトルが苦しそうにガオオォォン!っと雄叫びを上げる。

 素早く、M29を抜きながらハンマーを起こす、そして構えもろくに取れないまま、

ドォン!っと頭を狙って発射する。

 

 たぶん3mも距離が無かったのだろう、目に飛び込んだマグナム弾は脳髄をミンチにして後頭部に大きな穴を開けた。

 のけぞるようにガトルは倒れ、最後の攻撃を脳が無い体で俺に加える。

 右腕に焼けるような痛みが走り、2条の深くえぐれた傷が付いた。

 それでも、たちまち傷口の底から肉が盛り上がり傷口を閉じていく。時間にして10秒にも満たないけれど、途轍もない激痛だ。


 俺の足元に倒れた巨大ガトルの足を調べる。

 案の定、爪から緑の液が滲み出ている。

 

 呆気に取られている2人をよそに、姉貴が図鑑を素早くめくっている。

「ガドラーって言うみたいよ。魔獣みたい。心臓の位置に魔石を持っているらしいわ。凶暴で血液毒…アキト大丈夫だった?」

「奴に腕を裂かれた。とりあえず治ったけど…痛みは尋常じゃないぞ。」


 そして俺達はガトルの牙を集める。ついでに巨大ガトルの心臓付近をえぐると。カチっと音がして魔石が転がり出た。


「薬草の数は50本を越えてるか?」

「私は両方とも20本以上あります。」

「俺もその位はありそうだ。」

「わたしも結構取れたわよ。アキトも取ってたから30本以上は確実ね。」


依頼を完了させたのなら早急に此処を離れるべきだ。

やはり、魔物が出現した。となれば…。


「この辺で、薬草採取を切り上げる。姉さん後は頼んだ。アルトさんの方がちょっと気になる。先に行くぞ!」

「ラジャー。…ギルドで会いましょう。」


 早速、【アクセル】と【ブースト】を自分に掛けると、さっき見かけた嬢ちゃんずのところに駆け出す。

 風景が飛ぶように過ぎていく。

 そして、ようやく嬢ちゃんずを見つけた。

 何かと戦っている。

 アルトさんは大人の姿だ。踊るようにグルカを振るい触手を切取っている。その後にはルクセムくんがたまに伸びてくる触手を攻撃している。そしてルクセムくんの後には【メル】を2人で連発しているミーアちゃんとサーシャちゃんがいた。


 忍者刀を抜いて、嬢ちゃんずに近づくにつれ相手の全体像が見えてきた。

 嬢ちゃんずが戦っている相手はキメラだ。

 カルネラと肉食のモグラであるマゲリタが合体したようなやつだ。

 日光を怖がらない巨大なマゲリタがカルネラの触手を持っている。


 触手のムチを斬り払いながらマゲリタに近づいて刀を一閃する。

 そして素早く跳び去る。

 その傷口にミーアちゃん達の放つ【メル】が集中すると、グアァァ…っとマゲリタが立ち上がって咆哮する。3mは越えているようだ。

 

 アルトさんに【アクセル】を掛けると、アルトさんはたちまち数本の触手を斬り払った。

 「すまん。まさかこのような魔物がおるとは思わなんだ。」

 

 俺にそう言うと、触手をかいくぐりマゲリタに一撃を与えに走っていく。

 M29を抜いて、ゆっくりとハンマーを起こす。そして、ドォン、ドォン、ドォン…と残りの5発をマゲリタの頭部に打ち込んだ。

 

 体毛による防弾効果があるのだろうか。弾丸は頭に吸い込まれたのに貫通はしていない。

 それでも、脳髄は破壊したのだろう。ゆっくりと倒れていった。

 素早く銃のシリンダーをスイングすると排莢して新たな弾丸を装填する。

 

 俺が銃を構えている中、アルトさんが倒れたマゲリタの心臓をえぐる。すると魔石が転がり出る。

 まだ、ウネウネと触手が動いているが次第に動きは鈍くなりつつある。


 「…世話をかけたようじゃな。此処に長居は無用じゃ。引き上げるぞ。」

 アルトさんは何時もの姿に戻っていた。

 嬢ちゃんずはマゲリタの体からボルトを回収するとアルトさんを先頭に村に引き揚げて行った。


 「アキト~!」

 下の方から姉貴の声が聞える。やがて3人の姿が見えてきた。

 「お~い。」と俺も手を振る。

 とことこと姉貴が走ってきた。


 「どうだったの?」

 「やはり、アルトさんの危惧が現実味を帯びてきたようだよ。あれを見てくれ。」

 俺が指差す方を見て、姉貴は息を呑んだ。


 「何なの?」

 「キメラだ。マゲリタの体にカルネラの触手。日光を恐れる事も無く、触手の動きは早い。」

 「何ですかあれは?」

 スロットとネビアがやってきた。

 「魔物だよ。この頃見かけるようになってきた。少し此処は危険かも知れない。スロット達は早く此処を離れた方がいい。マケトマム村が下の町の東にある。平和な村だがそこそこの依頼はあるから、暮らしに不自由はないと思う。俺達も去年此処に来るまではその村にいたんだ。」

 

 「マケトマム村ですね。分かりました。…先程のような魔物では私達のかなう相手ではありません。ここは忠告に従います。」


 村への道は登り坂だ。疲れが溜まらぬようにゆっくりと歩いて行く。

 返り道で、西の森の方から数人のハンターが早足で歩いてくるのが見えた。担架に1人が乗せられているのが見える。俺達をたちまち追い抜いて村の門に消えて行った。


 「怪我人かな?…前に行った時には余り獣はいなかったんだけどね。」

 姉貴が担架を見送りながら言った。

 「確か、ガトルの討伐依頼があったよ。…もしかしたら魔物?」

 「可能性は高いわね。段々増えてきてるよきっと。」

 

 「そんな訳だ。もし、町に向かう馬車があるなら、今日の内にも発つんだ。」

 スロットとネビアは顔を見合わせている。

 「でも、私達でも少しは役に立つと思うんですが…」

 

 「俺達だって此処にいてもらいたい。だけど、此処で日々の依頼を受けるのに危険が伴う。赤3つの依頼に魔物が出るのでは依頼が達成できない。すると此処で暮らしが立ち行かなくなってしまう。だから、此処は俺達に任せて村を出て欲しい。」

 「そうですか…。」

 そう言って、2人は黙り込んだ。

 

 村の南門に着くと、魔物に出くわした事を当番の村人に告げる。

 村人は直ぐに門の脇で休んでいた村人と一緒になって開いていた門を閉じた。

 真直ぐにギルドに向かう。

 

 ギルドのカウンターに依頼の薬草を積み上げる。サフロン草が65個、デルトン草が62個で254L。巨大ガトルから出てきた魔石が150L、合わせて404Lになった。

 早速、1人101Lに分配する。

 そしてスロット達が、村を立ち去る手続きをシャロンさん相手に始めたのを見て、俺達はギルドを立ち去った。


 家に戻ると嬢ちゃんずが何時ものようにスゴロクで遊んでいた。

 もっとも、暖炉の前ではなくテーブルに広げて遊んでる。端の方に姉貴と座ると、ジュリーさんが早速お茶を入れてくれた。

 熱いお茶ではなく冷たいお茶だ。氷も浮んでいる。一気に飲むと氷の残ったカップにまた注ぎ足してくれた。


 「ご苦労さまでした。姫様の方に魔物が出たと聞きましたが、アキト様の方はどうでしたか?」

 「ガトルのでかいのが出たよ。灰色ガトルよりも大きかった。魔石が出てきたから魔物なんだろうと思うけど。そういえばガドラーって図鑑に載ってたな。」

 

 「ガドラーじゃと!…いよいよ怪しくなってきたようじゃの。我の方はカルネラの次が奴じゃった。キメラなので名は無いが手強い相手じゃった。…4人パーティは当分中断じゃ。今日の稼ぎは1人150Lになっておるから、今までの分と合わせれば当分暮らしには困るまい。」

 

 「俺達もスロットとネビアにマケトマム村に行くよう薦めました。赤3つの依頼に魔物では命が足りません。」

 「それは賢明な忠告じゃ。マケトマムなら若いハンターを育てるには良い所じゃろう。タグ以降は危険な話はとんと聞かぬ。」


 「少し、依頼を受けずに様子を見ようと思う。それと、アキトに頼みがある。我等のボルトが足りぬ。何とか数を揃えて欲しいのじゃ。」

 

 確かに、安易に依頼を受けるのは危険だ。ここは、嬢ちゃんずのボルトを作りながら狩場の変化を見極める必要があるだろう。

 


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