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#008 最初の依頼はキノコ狩り

 

 食事の後、俺達の部屋に戻ったら、姉貴がザックの中をごそごそと何かを探している。

 そして取り出したのは、海兵隊仕様の上下の迷彩服だ。更に、1本の刀まで出してきた。


 「明日からこれにしなさい。それと季節が違うようだから、上着は要らないかも……ポンチョを持っていけば大丈夫ね」


 姉貴に従って、服を脱ぎTシャツ1枚になる。迷彩のパンツにベルトを通してはくと、装備ベルトのサスペンダーの背中のグルカナイフのケースと交差するように日本刀を取り付ける。


 「姉さん……これって、忍者刀?」

 「そうよ。欲しがってたでしょ。お爺さんの部屋にあったから入れてきちゃった」


 テヘって舌を出して言わないでください。

 確かに欲しかった品だ。反りのある日本刀と違い、反りが殆ど無い……。どちらかと言うと直刀に近いが、実戦では斬るより突く方が効果的だ。


 しかも、鞘は薄金造り……。木に鋼を巻きつけ漆で塗装している。さらに石突は金属製で先端を研いでいる。鞘も武器として利用できるのだ。

 黒塗りの柄を手にとって抜いてみる…刀身も漆黒、刀身は約70cm十分な得物だ。


 取り出しやすいように、四角い鍔が肩から少し出るようにしておく。

 小袋に携帯食料と食器等を入れて、ポンチョに巻き込む。それを装備ベルトの腰部についている専用ベルトで横に固定する。

 こうすれば、M29がきれいに隠れて見えなくなる。

 GI水筒は右腰に着け、GIブーツを履きなおして、迷彩柄のキャップを被れば……何処の戦場に行くのか、と思いたくなるような出で立ちだ。


 そして、姉貴が最後に渡してくれたものは指先が空いた皮手袋、それに……。


 「姉さん。これは無いでしょ。幾らなんでも、これは!」

 「何が有るか分からないでしょ。用心の為よ。持ってなさい!」


 驚くなかれパイナップル型の手榴弾だ。

 とりあえずサスペンダーの右胸のスリングに通して、マジックテープでしっかりと抑えておく。


 俺の方が一段落したところで、姉貴の装備を見てみると、服装が迷彩柄になった位でそれほど変化は無いようだ。

 しかし、上着を脱いでTシャツにサスペンダーは、姉貴の大きな胸が更に強調される。あまり見ないようにしよう……。


 ミーアちゃんの方も、変化が無い。違いは姉貴が出したベルトを切詰めて、俺の作ったバックを取り付け、ポンチョ代わりに俺の上着を丸めて横付けしたぐらいだ。


 「さて、準備は出来たわね。明日ギルドに出かけてハンター業を開始します。……ザックは必要なもの意外はギルドに預けるから、最後によく装備を確認してね」


 何時の間にか沸いていた木風呂に入り、久しぶりにベッドで眠る。

 ベッドで寝るのが久しぶりなせいか、夢も見ずに夜が明けた。


 次の日、ミーアちゃんの呻き声で目が覚めた。

 隣のベッドでミーアちゃんが姉貴の足の下でもがいている。


 早速助け出して、姉貴を起こすと何でもないような顔でおはようの挨拶だ。

 半分寝ぼけている姉貴を無理やり着替えさせて、裏の井戸へ顔を洗いに連れて行く。


 朝食は黒パンに野菜と薄切りの肉を挟んだサンドイッチみたいなものだった。

 きれいに平らげ、お茶を飲んでいるとおばさんが紙包みを持ってきた。


 「これは肉のお礼だけど、今日からハンターをするんだろ。……いいかい。昨夜のハンターも言ってたけど、無理はするんじゃないよ」

 「心配かけてすみません。大丈夫ですよ。無理はしません」


 姉貴が、おばさんに微笑んで答えてる。でも、俺は誤魔化されないぞ。(絶対に無茶しますよ。)っていう顔だもの。


 家並みから外れている宿屋からギルドへの道は結構な距離だ。

 身一つで依頼がこなせるように装備を整えているので、ザックは一時的にギルドに預かってもらうために持参してきた。


 朝早いせいか、村の大通り?には余り人がいない。たまに家の前をほうきで掃除しているおばさんやお爺さんを見かけるとおはよう!と挨拶するが、その度に丁寧に挨拶を返されるので疲れてしまう。まあ、挨拶は礼儀の始まりって言うし、悪いことではないけれど……。


 「おはようございます!」


 元気な声で姉貴がギルドに入っていく。俺も遅れないように後に続いた。

 つかつかとカウンターの、昨日出会ったお姉さんのところに歩いて行く。


 「おはようございます。このザックを2つ預かってください。それと私達にお勧めの依頼を紹介してください!」


 ニコリとしながらそう言った。……いいのかな?

 カウンターのお姉さんも、びっくりしてたようだが、あぁ!と手を打って納得したようだ。


 要するに、俺達は字が読めない。依頼板の依頼用紙の内容も判らない。だったら聞けばいい。という訳だ。


 「困りましたね。……所で持ち合わせがありますか? ガイドを雇うのも良い方法だと思うんですけど」

 「「ガイド?」」


 「はい。黒カードの人達が一時的にボランティアでハンターのガイドをしてるんです。それなりの経験もありますし、何と言ってもその人に合った依頼を選別してくれますよ。それと、荷物の預かり料は依頼期間中1個5Lになります。」


 姉貴の頭に?が2,3個浮かんでいるのが見える。


 「ガイドの料金ってどうなりますか?」

 「レベルによっても違いますけど……『ヨイマチ』さんなら黒レベルの初めでいいと思います。それでしたら20Lが前金そして完了報酬の1~2割程度ですね。」


 意外と安い。さすがボランティア。と思うほどの料金だ。手荷物預かりも駅のコインロッカー程度の値段だ。


 「お願いします。今日からお願いできますか?」


 姉貴はポーチの中の布袋からお金を渡した。


 「ちょっと待って下さいね。……大丈夫です。今、呼んで来ますね」


 お姉さんはそう言うとカウンターから離れ、奥の階段を上っていった。

 しばらく待つと、お姉さんと一緒にミーアちゃんと同じようなネコ耳のお姉さんが下りて来た。

 カウンターの扉を開けて俺達のところにやってくる。


 「彼女がガイドのミケランさんです。黒1つですからお役に立つと思いますよ」


 彼女をそう言って紹介するとカウンターに帰っていった。


 「ガイドのミケランにゃ。……先ず皆のレベルが知りたいにゃ」


 ミケランさんをよく見ると、ミーアちゃんと少し違っていた。

 きれいな顔は丸顔で白いピンとしたひげがほっぺから何本か出ているし、シャツから出ている腕も短い毛に覆われている。

 でも、使い古された皮の鎧と腰に下げた片手剣がにとてもよく似合ってる。


 「これが私のカードです。アキトとミーアちゃんも出しなさい!」


 ミケランさんは、俺達が出したカードをしばらく見ていた。


 「これだと、採取系の依頼がいいかもにゃ。」


 そう言って俺達のカードを返してくれた。


 「こっちにゃ。」


 俺達はミケランさんに連れられて依頼板の一角に向かう。


 「この辺りが、皆のレベルに合った採取依頼にゃ。何かしたいことはあるかにゃ?」

 「え~と……。初めてだから、簡単で高額になるのがいいんだけど」



 「ん~と、この辺かにゃ。アリット茸の採取にゃ。東の森にあるはずにゃ」

 「アリットにゃらミーアも判るよ。村の森にもあったもの」


 ミケランさんは「賢いにゃ!」ってミーアちゃんの頭を撫でている。

 姉貴は俺を見て小さく頷いた。どうやら、アリット茸採取を引き受けるみたいだ。


 まあ、キノコ狩りだし……。ミーアちゃんも知ってるみたいだから、危険もなさそうだ。


 「じゃぁ、それにします。この後、どうするんですか?」

 「これをカウンターに持っていくにゃ」


 ミケランさんは依頼板から用紙をひっぺがしてカウンターのお姉さんの所に持って言った。


 「これにするにゃ」


 どれどれとお姉さんは用紙を見ていたが、「はい。判りました。」って言うと、大きな判子を用紙にペタンと押した。


 「確かに依頼の受領確認を致しました。アリットは1本6Lで引き取ります。10本以上が完了条件になります。期限は3日ですので注意して下さい」


 そう言って、姉貴に用紙を渡してくれた。

 早速出かけることにする。


 「「では、行ってきます!」」


 俺達はカウンターのお姉さんに元気よく挨拶してギルドを出発した。振り返るとお姉さんが小さく手を振っている。


 「ところで、準備したほうがいいものってありますか?」


 姉貴が、ミーアちゃんと手をつないで先頭を歩くミケランさんに恨めしそうに聞いている。ミーアちゃんと手を繋ぎたかったのか?


 「そうだにゃ……。籠があると便利かもにゃ。後は、お弁当だにゃ」


 ミケランさんの意見を取入れ、途中の雑貨屋で小さな籠(それでもミーアちゃんが背負うと大きく見える)と、乾燥させた肉を購入した。


 村の中の十字路を東に曲がって進むと村を囲んだ柵の門に出た。


 「ミケランじゃないか。今日も薬草の採取か?」

 「今日は、ガイドにゃ。東の森でアリットの採取にゃ」


 どうやら門番さんと顔見知りらしい。「気を付けて行けよ!」の励ましに送られて俺達は東の森へ続く道を歩き出した。


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