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#069 盗賊はどっち?

 早春のお日様が傾き始めると急激に気温は低下する。

 嬢ちゃんずに風邪なんかひかせたら姉貴とジュリーさんにどんな実力行使を受けるか分かったものではない。そろそろ、嬢ちゃんずもラビボール遊びに飽きはじめたようである。依頼のテルピはだいぶ確保してあることから、夕暮れ前に我が家に引き返すことにした。


 4人で森の裾を山への小道を目指して歩いていた時だった。

 突然、俺達の前に男が飛び出した。

 …どこかで、見たことのある奴だ。…そうか。ゲイムとか言う貴族ハンターの身内の1人で俺に投げ飛ばされた男だ。


 「へへへ…。後をつけてきたが、まさかチビッコを3人も連れてるとはな。」

 辺りを見渡すと、森の中から此方を見ている2人を見つけた。隠れているようだが俺の目はごまかされない。


 「先を急ぎますので、また今度。」

 俺達が男の横を通り過ぎようとした時だ。


 「待てよ。まさか、そのまま行くなんて考えてないよな!」

 男はそう言うなり、嬢ちゃんずの1人の肩を掴む。

 

 ヒュン!と空気を斬る音がしたかと思うと、グアアァ!と男が大声を上げて、もう片方の手で嬢ちゃんずの肩を掴んだ腕を掴む。しかし、掴んだ腕は肘から先が無かった。

 アルトさんが俺のグルカで男の腕を斬ったようだ。

 

 男が慌てて、切断された自分の腕を捜す。そして、嬢ちゃんずが踏みつけていた腕を見つけると急いで切断面を合わせて【サフロ】を唱える。そしてナイフを添え木にしてシャツを引きちぎってぐるぐる巻きにした。

 手際がいい…救急措置としては十分だろう。しかし、【サフロ】は表層の傷に対処できるだけだ。骨、筋肉、神経等はこの後【サフロナ】で直す以外に手はないはずだ。しかし、村にはたして【サフロナ】が出来るハンターはいるのだろうか。

 

 うずくまる男を無視して、小道に急ごうとすると、森の奥からゲイム達が姿を現した。


 「やってくれたな。黒5つの腕を取るとはなかなか勇ましい嬢ちゃん達だ。…そんな貧相な男より、俺に付いてこないか。家も服も望む通り、場合によっては男爵夫人になることも可能だぞ。」

  

 俺達はそんな言葉に聞き耳持たずに先を急ぐ。


 ビュンっ何かが俺達の傍を飛んで目の前でドォン!っと【メル】が爆ぜる。

「ゲイム様が仰っておられるのだ。素直に従うほうが良いのではないか。」

俺達が振り返ると痩せた男が魔道師の杖を構えて此方を睨んでいる。


 そんな彼らにサーシャちゃんは、腰のバッグから爆裂球を取り出すと、ポイって投げた。

 俺達は急いで駆け出す。…ドオォン!って後から爆発音がするけど、あいつ等大丈夫だよな。


 トコトコと4人で歩いていくと、ようやく山への小道が見えてきた。

 此処まで来ればもう追って来ないだろうと後を見ると、ボロボロの格好で俺達の方に走ってくるゲイムを見つけた。…執念だけはあるみたいだ。どんな人間でも1つぐらいは感心できる所がある、と姉貴の爺さんが言っていたのを思い出した。

 嬢ちゃんずを先に返して、ここは俺が残る事にする。


 バイバイ…って手を振りながら嬢ちゃんずが山道を下っていく。

 そして、俺はゲイムのやってくる方に振り返ると、奴は直ぐ其処にいた。


 「よくもよくも、この俺をこんな目に合わせてくれたな。当然覚悟はしていると思うが、俺は寛大な貴族だ。そのイヤリングと帽子を置いていけば、ひょっとして俺の気が変わるかも知れんぞ!」

 まぁ、凄んではいるんだけど、そのボロボロの格好ではね。

 

 「生憎ですが、このイヤリングは俺にも取れません。そして、帽子位自分で狩れば良いでしょう。…それでは。」

 とりあえず丁寧に断って先を急ごうとすると、ゲイムはいきなり長剣を引き抜き、俺の前に回りこんだ。


 「逆らった事を命で償って貰おうか…エェイ!」

 いきなり切りかかってきたけど、そんな踏み込みではガトルだって殺せないぞ。

 片足を軸にして半回転すると奴の背中を掌底でドンっと突いてやった。

 

 ゲイムは長剣を振り下ろしたまま1m程飛んで地べたにドデンっと顔から突っ込んでいった。

 土だらけの顔を上げて俺を睨むと、長剣を杖に立ち上がり上段に構える。

 俺に向かって一歩踏み込みながら斜めに長剣を振り下ろした。

 シュパン!

 俺とゲイムは唖然としてその場に立ち尽くす。

 俺が、奴の長剣を素早く抜いたグルカナイフで受けようとすると…グルカナイフが奴の長剣を両断したのだ。しかも、殆ど手応えを感じずにだ。


 「…何なんだその剣は。…丁度いい、それも置いていけ!」

 俺は、少しこいつが気の毒になった。…要するに子供なのだ。欲しい物は手に入れる。しかもそれが当たり前だとこいつは思っているみたいだ。

 だったら、俺がすることはただ1つ。こいつに自分の思い通りに行かないものがあることを教えることだ。


 「生憎と、このグルカも頂きもので貴方に与えられるものではありませんよ。…それでは。」

 俺が小道を下ろうとした時だ、鋭い殺気を感じて振り返ると、奴の手から【メル】の火の玉が放たれようとしている。咄嗟にグルカを抜きざまに奴の腕を斬りとった。

 さして手応えもなく奴の右腕がボトリと落ちる。

 鮮血を辺りに飛び散らせながら、ギャァァー…と叫んで転げまわる。

 遠くから奴の取巻きが走ってくる。後を彼らに任せて俺は自宅に戻った。

               ・

               ・

  我が家に帰り着くと、皆が俺を待っていたようだ。

 最も、嬢ちゃんずはあれからギルドに行って採取依頼の報告を行い、しっかり報酬をもらって、先程帰宅したみたいだ。

 テーブルの俺の席に着くと、姉貴が「ご苦労様。」って言いながらお茶のカップを渡してくれた。

 「それで、どうだったの?」

 姉貴の問いに、山での経緯を話すことになったのだが…


 「興醒めじゃ。ゲイムとやらに会ってしもうた。」

 「それでは、まだこの村にいたのですね。…分かりました。10日程留守にしますが…姫様、自重してくださいね。」

 そう言ってジュリーさんは、もう直ぐ夕暮れだというのに家を出て行った。

 

 「心配するでない。ジュリーは父上に会いに行ったのじゃ。直ぐに戻る。」

 アルトさんの父上って、現在の国王だよな。…簡単に会えるんだろうか?そして、何を目的に?


 「しかし、長剣をそのグルカとやらは斬ったというのか。是非その場で見たかったものじゃ。」

 「それと、ゲイムの右腕を斬りました。魔法が放たれる寸前だったので…」

 「それも、奴にはいい薬じゃろう。だが、改心すればいいのだが…あの手の輩は意外としつこいからのう。」

 アルトさんは意外と落ち着いてるけど大丈夫なのだろうか?…時代劇だと、こういう時は、ほとぼりが冷めるまで旅に出るのが一般的なんじゃないかと思うんだけど。


 「しかし、関係者は少ない方がいい。我等は仕方ないとしても、セリウスやミケラン…双子まで巻き込むような事があっては大変じゃ。明日セリウスには伝えておく。そして、奴等が次の手を打って来るまで、退屈じゃがこの家で我慢するほかあるまい。」

              ・

              ・

 そして、数日が過ぎていった。

 万が一の事を考え、何時でも戦闘が出来るように装備を整えて日々を過ごす。

 と言っても、俺は姉貴を相手にチェスをして、嬢ちゃんずは暖炉の前でスゴロクを楽しんでるだけだけど。

 セリウスさんはあれから一度尋ねてきて、ジュリーさんが王都に行ったのならば心配ないって言っていた。

 たぶん俺達を元気付けようとしてきてくれたんだと思う。義侠心があるから、頼りがいはあるが、しつこい奴等に双子まで狙われては本末転倒だ。

 

 「大丈夫ですよ。俺も、姉貴も、アルトさんもいますから。」

 「その姫が一番心配だ。良く見張っててくれよ。」

 流石にポイントを押さえている。それを言われると余り自信がない。

 

 不思議な事に、意外とセリウスさんは王宮に詳しいのだが、何かありそうでちょっと本人には聞きにくい。後でジュリーさんに聞いてみようと思う。


 そして、また何日かが過ぎた日の事だった。

 突然扉を乱暴に叩く音がした。

 採取鎌を手に扉の鍵を開けると、家の前の広い庭に20名程の男達がたむろしている。


 「アキトと言う者は御主か?」

 赤く染め上げられた革鎧に身を包んだ大柄の男が俺に問う。

 「俺が、アキトですが何か?」

 「お前を、反逆罪、窃盗及び誘拐の罪で逮捕する。逆らえば命は無いものと思え。」

 

 いきなり大声で俺の罪を告げると俺の腕を掴んだ。手首を掴むと関節を捻り庭の石畳みに投げつける。

 ガシン!といい音がした。

 鼻でも打ったのか血まみれの顔を俺に向ける。

 

 「大人しくしておれば、腕を折る位で済んだものを…盗賊は抵抗した。皆抜刀を許す。この場で斬り捨てろ。」

 オォォ!っと男達の声が上がる。こりゃ、やるしかなさそうだ。

 家から数歩歩いて奴の前に出ると、俺を男達が扇型に取り囲んだ。

 ざっと男達を眺めるとハンター風の者、そして赤い革鎧に身を包んだ兵士風の者がいる。

 【アクセル】小さく呟き俺の身体機能を上昇させる。

 

 オリャァ!って左手から片手剣で突いてきた男を体を回転させて凌ぎ、脇腹を採取鎌で打ち付ける。続いて俺に長剣を振ろうとした男の腹を石突きでズンと突き刺す。

 手強いと見た男達が俺の包囲を少し広げた。

 採取鎌を家の方に放り投げ、グルカを抜く。

 見たことも無い、黄色く光る刀身を見て男達に戦慄が走る。


 「ぬるいぞ。何故、殺さぬ。…良いか我等は無実なのじゃ。それを襲うのは盗賊。そして盗賊ならば成敗しても国法には触れぬ。」

 アルトさんがそういいながらグルカを抜いて俺の右に立つ。でも、嬢ちゃん姿なんだよな…

 姉貴も、槍を持って扉の前に立つ。トリスタンさんとの約束だ。サーシャちゃんを守るためならって感じで短い槍を構えている。

 そして、扉は開いている。木箱を倒して、其処にクロスボーを構える2人がいた。


 アルトさんを見ると、アルトさんと目が合った。

 アルトさんが頷いたと同時に、ウオォー!と声を上げて男達の中に乱入する。グルカを小さく振りながら男達の武器を持つ腕を次々に叩き斬る。軽いグルカはそれ程力を入れずとも容易に俺の意のままに相手を無力化していく。

 アルトさんの方が少し過激だ。狙うのは腹…ひょっとして、ワザと嬢ちゃん姿でいるのかも知れない。身長的に相手の腹を狙いやすいのだ。

 そして、突くのではなく、脇腹をはらうように斬りつける。内臓を少し傷つけ、動けば傷口から腸がはみ出すような絶妙な傷を作っていく。剣姫と言われるのが少し分かった気がする。

 

 ウオォ!って右手から繰り出された槍を叩き斬ろうとしたら、突然に男が倒れた。次の男の斬撃を避けながらチラっと倒れた男を見ると、足にボルトが貫通している。ミーアちゃん達も加勢してくれてるようだ。

 

 扉には姉貴がいるから心配はない。

 残り10人程度になった時、ゲイムが男達の後から現れた。


 「よくもやってくれたな。…だがこれでお前達も終わりだ。此処はサナトラ男爵領だ。その治安部隊をやったのだ。ここは逃れる事は出来ても王家の軍が動く。先程使いを出した。もう直ぐ砦の兵が来るだろう。何処へも逃げる事はできぬさ。」

 

 笑いながらも俺のことを油断無く見ている。

 男達の中に【サフロ】を使える者がいるみたいで俺とアルトさんの隙を窺いながら悶え苦しむ男達の治療を始めた。


 俺達と男達のにらみ合いが続いていると、通りの方から新たな一団がやってきた。


 チェインメイルに身を包んだ数十名の一団がやってくると、俺達全員を取り囲んだ。

 「これはこれは第一軍の皆様方。…お見苦しい所をお見せして申し訳ありませぬ。ただ今、捕り物の最中でして、あの家にいる男と女、ハンター崩れの盗賊でございます。私の宝の宝石、帽子、武器を盗み、我が家の奴隷を盗みおりました。まぁ、奴隷はきつく焼き鏝でも押し付ければまた使えましょうが、其処の男と女は此処で切り捨てるつもりがこの有様、真に申し訳ありませぬが力添え願えぬでしょうか。もちろん我が父上より恩義があったことは国王様に報告いたします。」


 ゲイムは、新たな一団の中でチェインメイルの上に薄いコートを着た男にそう言った。

 どうやら、彼が隊長らしい。

 

 「なるほど、盗賊か。その訴えしかとこの耳で聞いた。もはや言い逃れは出来まい。」

 ゲイムは俺を見て笑っている。

 「ところで、此処にいるハンターは何者だ?」

 「彼らは、私の危急に馳せ参じた者達です。何れも名のある貴族のご子息です。」

 「そうか。…残念だ。」

 

 其処に、タタタ…と石畳を駆けてくる足音が聞えてくる。

 「…ハァハァ…遅くなりました。姫様ご無事でしたか?」

 ジュリーさんが来たみたいだ。このタイミングで、どういう事?


 「どうやら、一件落着だな。後は任せるぞ。」

 「ハハァ!…お任せください。」

 隊長は丁寧にアルトさんに答えた。


 「どういう事だ。ここは我が所領。お前が勝手に采配は振るえぬぞ!」

 「此処は、王家直轄領となった。サナトラ男爵は数日前に自決したよ。奥方と一緒にな。長男は土の神殿で苦行僧となった。サナトラ男爵には他に家族はいない。」

 「此処に俺がおるではないか。三男のゲイムは俺だ!」

 

 隊長は気の毒そうにゲイムを見つめる。

 「いや、そんな者はおらぬ。サナトラ男爵の遺言には息子は2人。長男は苦行僧で次男は戦死したそうだ。」

 「そんな……」

 

 それを聞いた他のハンター達が立ち去ろうとすると、兵士がそれを槍で押し戻す。

 「そなた達はこの男の一味になる。盗賊かそれとも逆賊か…」

 

 その言葉を聞いたハンターの1人が隊長の前に出る。

 「いいか。良く聞けよ。俺達は盗賊を懲らしめているのだ。それを逆賊等とよく言えたものだ。これは父上に報告するぞ。早く其処をどけ!」

 「どの父上にですかな?」

 「言わずと知れた、エイムス男爵だ。国軍であれば知っておろうが!」

 「エイムス男爵には男子がいないことをお前は知らんのか!」

 反対に隊長が一喝した。


 「もう何も言わずともよい。お前達を逆賊として処理する。…国王より下されたお前達の刑罰は…火刑だ。だが、最終的には剣姫様に任せるそうだ。」

 「剣姫様が来ずとも、我々は此処を離れます故…」

 「お前達も会っておるではないか。お前達と同じハンターだ。銀3つのな。」

 

 「しかし、それならハンター同士の私闘。国軍に逆賊と呼ばれることは無いはず。」

 「ところがあるのだ。お前達が奴隷と言った娘は、国王の孫姫だ。私はさっきの言葉をしかと聞いた。もはや言い逃れは出来ぬ。」

 

 「それは、方便に過ぎません。姫はあの男に騙されておるのです。」

 ゲイムは尚も食い下がる。

 

 「お前は聞いた事は無いのか。虹色真珠を持つものと、貴族が諍いを起こすならば、国王は貴族を切り捨てる…という言葉を。あの男の持つ虹色真珠は本物だ。それをお前は奪われたと言ったな。持ち主が変われば虹色真珠はその光を失う。」


 男達が膝を折った。ようやく自分達ではどうにも出来ないことに気がついたみたいだ。

 「今まで、色々と迷惑をかけてきたようだな。これで少しはこの国が住みやすくなる。」

 そう言って、片手を上げると兵士達が次々と男達を縛り上げる。

 

 「さて、申し訳ありませんが剣姫様を呼んで貰えないでしょうか。彼等の沙汰を決めねばなりません。」

 「それには及ばぬ。…そうだのう…2度と顔を会わせることが無いように頼む。それと、自分の言葉に責任を持たせよ。躾がなっておらぬようじゃからの。」

 「責任を持って措置します。」

 

 隊長はそう言うと部下に男達を連れて行かせた。

 最後に隊長は俺に一礼をすると石畳を歩いていった。


 とりあえずこれで、この件は終わったのだろうか。

 尻切れトンボ的な終わり方だけど、彼等への措置が極めて残虐な物である事を知ったのは、セリウスさんに顛末を話した時だった。

 

 

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― 新着の感想 ―
久しぶりに「ユグドラ」を読みたくなり、再読中 男爵の三男一党…どう処理されるのか、ちょっとドキドキ
[気になる点] 「剣姫様が来ずとも、我々は此処を離れます故…」  「お前達も会っておるではないか。お前達と同じハンターだ。銀3つのな。」 ※剣姫アルトって銀4つ  読み返すと誤字が未だに出てくる…
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