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#060 灰色ガトルとの死闘

 村を出る時は吹雪いていたけど、今夜は満月が2つ出ている。たまに革のマントをめくって外を確認すると、雪原が眩しいくらいだ。


 チロチロと燃える小さな焚火で暖をとりながら、タバコを吸っていると外が騒がしい。

 マントをめくって様子を見ると、数匹の獣が何かを引張っている。杭に紐で結ばれた雪レイムをとり合っているようだ。紐に一緒に結ばれた枝がガサガサと音を立てている。

 急いで寝ている2人の足を揺さぶって起こす。 

 

 「来たか(の)。」の問いに俺は頷いた。

 「います!」と短く答えて、2人に【アクセル】の魔法を掛ける。無論俺にもだ。

 直ぐに、セリウスさんがマントをめくって仕掛けを見た。

 「どうやら7匹いるようだ。雪レイムの所に4匹、少し離れて3匹いる。…殺るぞ!」


 早速、準備する。と言っても、手袋をして帽子を深く被るくらいだが…

 「いいか、大きな音は出すな。雪崩になるやもしれぬ。武器は此処で抜いて出る。外は厳寒だ。剣が凍って抜けなくなるぞ。」

 

 俺は刀を左手に持ち、外にそっと這い出した。

 続いてセリウスさんが両手に剣を持って、同じように姿勢を低くして這い出してくる。

 最後に姉貴がクロスボーを抱えて、這い出してきた。そして、離れたところにいる灰色ガトルの1匹に狙いを定めて…発射した。


 遠巻きの1匹が突然何かに吹き飛ばされるように転がった。

 「「ウオォォー!!」」

 大声を上げながらセリウスさんが灰色ガトルに向かって走り出す。

 雪原を跳ねるようにセリウスさんが走る後ろを俺も同じように声を上げて走っていく。

 

 灰色ガトルは雪レイムから俺達に向きを変え、「ガルル…」と唸り声を上げて俺達を威嚇する。そして連携をとるように俺達をたちまち取り囲こもうとしている。

 俺の後ろに回り込もうとする灰色ガトルの顔面にボルトが突き刺さる。

 姉貴の2射目が命中したみたいだ。振り返ると姉貴が小刀を抜いてこちらに走ってくるのが見えた。


 残り5匹…だが、残りの奴らは俺達から2m程の距離を置いて「ガルル…」と低い唸り声を上げながら隙を窺っている。


 「ガアァウ!」ひときわかん高い声がしたかと思うとセリウスさんに3匹が一斉に飛び掛る。セリウスさんは一歩後ろに下がり両手の剣を素早く上下に振って灰色ガトルの鼻先を斬りつける。

 その時、俺の横にいた奴が後ろからセリウスさんに飛び掛った。

 それを俺が刀で斬り付けた時だった。左腕に激痛が走り、見ると俺の腕に大型の灰色ガトルが噛み付いている。そして奴の勢いで俺は雪原に押し倒された。刀は左腕の痺れでどこかに行ってしまった。


 なんとか振り払おうと、雪原を転がりまわる内に雪原の端にまで来てしまったようだ。

 いきなり、雪の坂を灰色ガトルと共に転げ落ちる。

 遠くで俺の名を呼ぶ姉貴の声が聞える。

 ゴロゴロと転がりながらも右腕で奴の鼻頭を殴りつけたが効果はない。

 やがてドンっと衝撃を受けて森の手前で止ることができた。 

 灰色ガトルの背には太い立木がある。どうやら、奴がクッションになってくれたらしいけど、腕を噛んでいる力に変化はない。衝撃で落下した雪が俺の出血でたちまち赤く染まっていく。

 

 そのまま奴を木にドカドカと打ちつけても噛み付いた力が変わる事は無かった。

 右手を背後に廻して左肩に取り付けたサバイバルナイフをやっとの思いで引き抜く。

 そして、奴の喉の下から後頭部に向けて一気に突刺した。

 そのままえぐるようにナイフを動かすと、「アウゥゥーン…」低い嗚咽のような声を残して奴は死んでいった。


 それでも、腕を噛んだ力に変化はない。腰のバッグからスコップナイフを取り出し、それを奴の口に入れ梃子のようにして口を開かせる。

 厚みのあるナイフだから折れる心配はない。力ずくでナイフを上下させると、少しづつ奴の口が開き始めた。

 最後にはナイフに足を掛けて、思い切り蹴飛ばす。…そして、ようやく奴から俺の腕を離す事ができた。


 ザザーっと雪を滑る音がする。

 慌てて、奴の喉からナイフを引き抜いて坂を見上げると、セリウスさんが片手に剣を持ったまま、ロープを手に坂を下りてくるのが見えた。


 「大丈夫か?…俺を守ってくれたのは嬉しいが、お前がやられたのでは元も子もない。」

 「何とかなりましたが、まだ腕が痺れてます。」

 セリウスさんは俺の腕を見ると、自分の小さなバッグから布を取り出しおれの腕をグルグル巻きにした。

 

 「これを伝って行け。ミズキも無事だ。直ぐに手当てをしろ。」

 セリウスさんは俺にロープを結ぶと。「引き上げろ!」と坂の上に叫んだ。

 直ぐにロープが手繰たぐられる。

 俺は、ロープに助けられて、何とか坂の上に辿り着いた。


 姉貴が駆け寄ってきて、俺に抱きつく。

 「もう…心配したんだから。早く上着を脱いで手当てをしなくちゃ。」

 姉貴に抱きかかえられるようにカマクラモドキに入ると直ぐに上着を脱がされた。

 しっかりと奴の牙が数枚着込んだ服を貫通しており、その周辺は出血で赤く染まっている。

 「……そんな!」

 レスキューバッグから簡易医療セットを取り出した姉貴が、俺の腕を見て絶句している。

 何事かと自分の左腕を見ると、出血跡をアルコールで拭き取られた腕には全く傷が無い。

 

 そういえば、カードを見せた時にグレイさん達が驚いてたな…確か「サフロナ体質」ととか言ってたようだけど、それがこれか。…本当なら骨が砕けていても不思議じゃない状況で、痛感はあったが意識が途切れることは無かった。…とんでもない能力だ。


 とりあえず造血剤を2個渡されお茶で喉に流し込む。…レバーがいいとか聞いた事があるけど、この世界ではまだレバーの料理に出会っていない。基本的に内臓は廃棄するのかも知れない。


 マントが開き、セリウスさんが入ってきた。

 「怪我の程度はどうだ?」

 小さな焚火の傍に座るなり俺に向かって言った。

 「直りました。自己治療が可能な体質みたいです。」

 そう言って左腕をバシバシと叩いてみせる。

 「サフロ体質か…話には聞いていたが、あれ程の傷が直ぐに直るのか。治療魔法は必要なしだな。」

 そう言うと「お前のだ。」と俺の刀を渡してくれた。拾ってきてくれたみたいだ。

 「ありがとうございます。」素直に礼を言う。

 「中々の腕だ。ミズキもな。まさか、ミズキが片手剣を使えるとは思わなかった。」

 セリウスさん、姉貴は俺より強いんです。まして姉貴が小刀というか小太刀というか…そんなものを持たせたら、俺より安心して後を任せられます。

 そんな事を思っては見たものの、こちらをジッと見てる姉貴に気が着き口をつぐんだ。姉貴は隠しておきたいのかも知れない。


 「もう直ぐ夜が明ける。明るくなったら村に戻るぞ。俺は奴等の皮を剥いでくる。」

 そう言ってセリウスさんは外に出て行った。俺のことが心配でちょっと様子を見にきただけのようだ。

 

 姉貴は水筒に残った水でスープを作り始める。俺は、ビーフジャーキーの残りを齧りながら小さな焚火に枯枝を投げ込んだ。

 「ジャーキーはまだ残ってるの?」

 「いや、これが最後。今度からは干し肉だけど…そのまま食べられるのか心配なんだ。」

 すると、姉貴はレスキューバッグから小さな袋を取り出すと俺の手に一掴みのジャ-キーを乗せた。

 「大丈夫。これはなくならないから、心配しないで。」

 そして、ジャーキーをナイフで切り刻んで鍋に入れていく。おれはありがたくジャーキーを俺のバッグの袋に入れた。


 ジャーキーの香辛料で少し辛く感じるかもしれないけど、寒さには胡椒が体を温める。

 朝食が少し待ち遠しくなってきた。

 鍋が沸騰すると、今度はポットに俺の水筒から水を入れて焚火にかける。そして、黒パンの残りを焚火で温め始めた。


 「いい匂いだな。」

 セリウスさんがマントを開けて入ってきた。

 ドカっと焚火の傍に胡坐を書くと手袋を脱いで焚火にてをかざす。

 

 「毛皮は7枚だ。処理を村人に任せるとして、一番大きな奴は倒したアキトが受取れ。それと俺達の3人の帽子に3枚。残りの3枚は1枚皮をなめしてくれる村人に渡して、2枚は雑貨屋に売る。銀貨6枚程度になるだろう。」

 セリウスさんはパイプに火を点けながら俺達に毛皮の始末を教えてくれた。

 

 「灰色ガトルの毛皮ってそんなに高いんですか?」

 俺は思わず聞いてみた。今被ってるこの帽子もガトルの毛皮だけど銀貨1枚もしなかったからだ。

 「高いぞ。どちらかと言うと希少価値なのだろうが、ガトルの5倍以上で取引される。そして、それが灰色ガトルであることは色を見れば直ぐに判る。」

 確かに、俺が被っている防寒用の帽子は茶色に黒が混ざった物だが、灰色ガトルは銀色に近い毛並みだ。

 「実際には、10倍以上の価値がある。獲るのは命がけ、この王国でこの冬に取れる毛皮の数も10枚あるかないか。」

 プレミア価格ってことだな。

 「なら、残り2枚も売らないで、ミケランさんとジュリーさんに進呈しましょう。この間の狩りでまだ手持ち金はあります。アルトさん達だと毛皮の枚数が足りません。」

 「お前がそれで良いのなら、ミケランも喜ぶだろうが…欲のないやつだ。」

 「あの3人に2枚渡したら……大変な騒ぎになりますよ。」

 姉貴も賛成してくれた。


 出来上がった朝食を食べ終える頃には朝日が雪原を照らし出していた。

 余りの眩しさにバッグからサングラスを取り出す。姉貴も同じようにサングラスを取り出してかけている。セリウスさんは瞳を極端に細くしているようだ。猫族だしね。


 村への帰り道は、坂の下りだから少しは楽だが、雪に雪靴が半分以上埋まるので思った以上に進むことができない。

 適当に休みながら歩いて行く。

 そして、昼過ぎには村の西門に着く事ができた。

 ギルドに行って、シャロンさんに灰色ガトル討伐を報告する。一人銀貨5枚を貰い、灰色ガトルの牙を換金する。ガトルだと25Lだが、こいつは1匹分が銀貨1枚だ。「牙がひと回り大きいので細工用として珍重されるんです。」とシャロンさんが教えてくれた。銀貨7枚はセリウスさんに3枚、俺達が2枚づつ分ける。

 

 「俺はこれのなめしを頼んでくる。先におれの家で待っていてくれ。」

 セリウスさんと別れて、セリウスさんの家に先にお邪魔する。嬢ちゃんずが迷惑をかけていない事を祈るばかりだ。

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[一言] 〉「サフロ体質か…話には聞いていたが、あれ程の傷が直ぐに直るのか。治療魔法は必要なしだな。」→「‥あれ程の傷が直ぐに治るのか。‥。」
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